『速報です。5日未明に行方不明となっていた警察庁警視正の○○○○氏が7日、都内のビルの一室で遺体となって発見されました。○○氏は発見された当時身元不明でしたが、持ち物やDNA鑑定の結果、本人であると断定されました。現場には被害者のものと思われる血痕があり、遺体に特徴的な傷が多数残っていたことから、警察は「エインガー」による犯行だとして捜査を進めています。本日はスタジオに、敵犯罪の専門家の□□氏をお招きしま』

ブツン。

テレビの電源を切ると、黒い画面に古傷が残る口を閉じて無表情の私が映る。いつもより発見されるのが早かった。今回はあまり人の出入りがなく、防音設備がしっかりしているビルを使ったのだけれど。個性を使うのに申し分ない環境だったが、こうも続けていると流石の警察も犯行現場の目星が着いてくるのだろう。少し時間を置かなければ。

まだ乾いてない少し湿った髪が首元に絡み付いて鬱陶しい。髪をまとめて前に持っていきながら、スマホを操作し電話をかける。耳に当て、2コール目が聞こえる前に電話はつながった。

「もしもし。うん、そう。この前言ってた奴。次はそうだな……3か月後には動く。それまでに向こうの予定の把握をお願いしたい。料金は振り込んで……いや、いい加減諦めろって、払うからな、じゃあ」

音漏れの激しい受話口から耳を離して、ぶつりと通話を切る。こいつと関わるようになってどれくらい経っただろうか。通話の相手は、ちょっとした縁があって協力関係にある変わり者の情報屋。情報屋としては優秀な奴なのだが、私に対しては何故か金銭を求めない。しかしながら、私の求める情報は大抵かなりのリスクを伴うのでそういうわけにもいかず、毎回「いらない」と言うそいつに無理矢理受け取らせている。

ベッドを降りた私は、冷蔵庫からミネラルウォーターを取り出して一気に飲み干す。一息ついたところで、ベッドに放置したスマホから着信音が響いた。またあいつだろうかと思いながら出ると、予想よりずっと低い声が私を呼んだ。

「……出んの遅いぞ、烈」

「……何だ弔か。何、さっきバイト終わったばっかなんだけど」

「何だ、って……またあの情報屋イカれ女か?」

「お前には関係ないだろ。それで用件は?」

「チッ……先生からの指令だ。すぐにアジトに来いってよ」

「…………すぐに行く」

通話を切って、荷物をまとめ、安いボロアパートを出る。恐らく連合が動くのだろう。その日は清掃バイトを休まなければならない。体力を使うが、あちこち色んな建物に出入りできるのが利点で始めたバイトだ。個性を使いやすい場所を選ぶのに参考になる。ただ、タイミングを見計らないと怪しまれるため、場所を使う時期には慎重にならないといけないのが難点だ。

向かうのは敵連合と呼ばれる組織の隠れ家。

正体不明の敵---エインガーは敵連合の一員であった。



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