サングラスをかけて変装しているつもりなんだろうけど、オーラが隠し切れてなかったからすぐにわかった。

EXILEのTAKAHIROだ。


ここは高級マンションだし、彼が住んでいるのかもしれないから、エレベーターの前ですれ違ったって何もおかしいことはない。

でも俺は知ってるんだ。
昔芽依とこの人が付き合ってたこと。



「あれ、どしたの急に」


いつだって芽依は家に上げてくれた。
この間のこともあって、避けられてもおかしくないのに。



「あー、腹減った」

「ご飯食べてないの?」

「うん、まだ」

「シチューあるけど食べる?」

「まじ?食う食う」


温め直してくれる芽依の背後から鍋を覗き込む。うん、美味そう。

こうしていると新婚さんみたいで、少し複雑な気持ちになった。


「…さっきさ、」

「んー?」


シンクには、シチューが入っていたであろう皿が二枚。


「EXILEのTAKAHIROくん来てた?」

「……」


芽依の手が止まった。


「エレベーターんとこで会った」

「…そうなんだ」


美味そうな匂いが漂ってきて、ますます空腹感が増してくる。
しかし今はそんなことより、もっと大事なことが頭に浮かんだ。



「…いやいや、なんだよその反応。別にいいじゃん、TAKAHIROくんが遊びに来たって」

「ゆっけ、」

「仲良いことくらい知ってるし!」

「聞いて、ゆっけ」

「現に俺だってこうやって家上がってるしーー」

「雄輔!」

「っ!」


…“雄輔”。


「ちゃんと話さなきゃいけないって思ってた」


やめろ。聞きたくない。
俺は、お前に名前を呼ばれるだけでバカみたいに嬉しいってのに。


「私、敬浩と付き合ってる」

「…前付き合ってたことは知ってるよ」

「違う!またヨリ戻したの」

「……」

「黙っててごめん」


仕方ねえよ、だって俺、お前に振られてんだもん。
振った相手に言いにくいことくらいわかる。

もう芽依はTAKAHIROくんの女だ。俺は友達として、祝福してやらなきゃいけない。


「おめでとう」

「……」

「つーか好きな人いたんなら、言ってくれれば良かったのに」

「え?」

「俺が告ったときも、TAKAHIROくんのこと好きだったんでしょ?」

「……」


ちょっと待って。
なんで黙んの。



「…ごめん」



…は?


「…それは何に対して謝ってんの?」

「ゆっけが思ってるようなことじゃないからーー」

「もういいよ!!」


バンっと机を叩いて立ち上がる。


「待って、話を聞いて」

「何を聞くんだよ!!俺はダメだけど、TAKAHIROくんとは付き合える。そういうことだろ!?」

「ーーっ!」


俺の腕を掴んでいた芽依を振り解いて玄関に向かう。
それでも着いてくる芽依。


「結局お前は、好きじゃなくたって付き合えるんじゃん」

「それは、」

「なのに振られたってことはさ」

そういうことじゃん?






芽依を拒絶したのは、今日が初めてだった。

ドアを閉めるときに隙間から見えた芽依の顔を、多分一生忘れられないだろう。





嘘がわかった途端に

(愛は悲しみに変わった)