もうすぐ日付が変わるというときだった。


「ごめんな、いきなり来たりして」


智久が訪ねてきたのは。



「ううん、大丈夫。どうかした?」

「いや、そういうわけじゃねぇんだけど。元気かなって」



申し訳無さそうな顔をする智久だけど、誰かと一緒にいると恐怖が和らぐから私としてはすごく嬉しかった。


今日も例の郵便物は来ていた。怖いなら見なきゃいいのに、私は中身を見て怯えて。それをゴミ箱に捨てるんだ。



「ちょっと待って、コーヒー出すから」

「あぁ、サンキュ」



付き合ってるときも別れたあとも智久が私の家に来るとコーヒーを出す。最初に出したとき「このコーヒーすげぇ美味い」って言ってくれて、どちらかというとコーヒーが苦手だった私もそれだけは口に合ったから、継続してそれを使っている。
さすがに専用のカップは別れたときに始末してしまったから、来客用のだけど(ちなみに嵐の5人の専用カップはあったりする。相葉ちゃんがご丁寧に6色買ってきたから)



「‥芽依」

「ん?」


振り向くと、さっきまでソファに座っていたはずの智久がすぐ後ろに立っていた。‥‥手にあるものを掴んで。


「これ、何?」


“これ”とは智久の手にある私が捨てたはずの写真だった。

しまった。最近誰も来なかったからそのままにしていたんだ。まさかゴミ箱を見られるなんて思ってもみなかったから。



「‥雑誌の撮影で失敗したからって、」

「どう見ても盗撮でしょ?これ」



智久の目が見れない。
後ろでコーヒーメーカーがジュボジュボッと音を立てた。「コーヒーできたみたい」とわざと話を逸らしてみる。‥が、肩をグッと掴まれ正面を向けられる。


「正直に言って、芽依。‥ストーカー、いんの?」



返事はしなかったものの涙が溢れてきた。それを肯定と取った智久に抱き締められる。強すぎて、痛いくらい。


「なんで言ってくれねぇんだよ‥」


大好きだった匂いに包まれて、涙の量は増す。ごめん、智久のTシャツに染みできちゃった。



「誰かには言った?」

「‥誰にも言ってない」

「なんで!」

「迷惑、かけたくなくてっ」



馬鹿、と言って腕にもっと力を入れられた。痛かったけど、智久の気持ちがひしひしと伝わってきたから苦痛ではなかった。不思議だけど。



「怖かったな、辛かったよな‥」



ずっと欲しかった言葉。一人で恐怖と戦っていた私にとって、誰かに言ってほしかった。わかってほしかった。“怖かったよな”――怖かったよ。“辛かったよな”―――辛かったよ‥!


「智久ぁ‥」

「ん、もう大丈夫だからな」


片方の手で優しく頭を撫でてくれる。それに安心して余計に涙が出てきた。


前に私が5人を週刊誌のネタにするのを防ぐために記者の人に何度も抱かれていたときも、智久が一番に気付いてくれた。そのおかげで5人に本当のことを話すこともできた。
智久には迷惑かけっぱなしだなあ‥。



「ごめんね、迷惑かけて」

「何言ってんだよ、別に迷惑とか思ってねぇから。それに頼ってくれるほうが嬉しいし」

「‥ありがとう」



兎に角今は、智久の温もりに包まれていたかった。コーヒーの香りが漂う中で。





スーパーマン

(いつも私を救ってくれた)