これは俺らが嵐としてデビューしてから数年後の話。



今程じゃないけどそれなりに人気も出てきて、そうすれば自然と女の子も寄ってくるわけで。
今も完璧大人しくなったとは言えないけどあの頃は本当に遊んでた。次の日に、昨日何人と寝たとか超美人の相手したとかいうくだらない自慢もしちゃったりしてた。そんな俺らを芽依がどう思ってるかなんて知りもしなくて。



「今日さ、久々にみんなで飯行こうよ」



翔ちゃんのその提案に俺も含めた5人は賛成をした。最近はそれぞれ女の子ばっかり相手にしてたからみんなで飯なんて久々だななんてウキウキしちゃったりして。


「ごめん、私無理」

「え、なんで?」

「ちょっと‥用事」

「なに、男?」


松潤の問いかけに固まる芽依。ありゃ、これは図星か。俺らが遊んでるように芽依も遊んでるってわけね。まあこれだけ可愛いんだし男も寄って来るか。俺だって芽依とヤりたいもん。つってー!



「遊ぶのは勝手だけど仕事に支障出ないようにしろよ」

「‥どういう意味?」

「お前最近顔色も良くないしなんか痩せたし。そんだけ体に負担かかってるんだから‥」
「うるさい!!」


楽屋がしんと静まる。芽依の目に涙が浮かんでいるように見えるのはただの錯覚かな?唇を噛んで必死に耐えているように見える。

少しの間のあと芽依はハッと我に返った様子で「ご、ごめん。気にしないで」と逃げるように帰って行った。

その姿をリーダーはただじっと見つめていた。



「何なのあいつ」

「‥さあ?」

「気にしなくていいじゃん。早く行こ」


俺とリーダー以外は何も感じていないようだった。それでも俺だって芽依が何を考えているのかはわからなかった。
ちらっとリーダーを見るとその視線に気づき俺を見て「相葉ちゃんも行こう?」とにっこり笑った。

その次の日、若干気まずさが残る中も6人での撮影だった。芽依も普段通りの芽依だったから俺らも普段通り接したけど。元々ニノも松潤も翔ちゃんも別に怒ってなかったからね。
ただ一つ違うのは、昨日よりも更に芽依の顔色が悪かったこと。大丈夫かと訪ねても「大丈夫大丈夫!」と彼女は笑顔で言ってみせた。









撮影の合間、トイレへ行こうと廊下を歩いていると前方に芽依の姿を発見した。声をかけようとした次の瞬間、彼女はその場に崩れ落ちた。


「芽依!!」


俺じゃない誰かが芽依の元に駆け寄って支える。その人物はよく見たら俺らの後輩の山下智久くんだった。



「智久‥」

「顔色すっげー悪いじゃん。大丈夫なの?」

「あは、大丈夫!多分今生理だから貧血起こしたんだよきっと」



あははと笑う芽依に眉を潜める山P。
2人が俺に気づいていないのをいいことに悪いと思いながらも盗み聞きさせてもらうことにした。



「なあ芽依。俺この前聞いたんだ」

「聞いたって何を?」

「芽依が5人を庇って――」
「言わないで!」



その姿は昨日ニノに対して叫んだ姿と全く同じだった。今日は見間違いなんかじゃない。芽依が、泣いてる。


今の芽依の叫び声が聞こえたのか楽屋から他のメンバーがなんだなんだと出てくる。俺はその4人に対して、しーっと人差し指を立てて無言で芽依を指差した。そんな俺のジェスチャーが伝わったのか4人は黙って芽依を見る。俺らの存在には気づいてないようだ。


「聞いて、芽依」

「嫌だ、あの人の話なんか聞きたくない!」

「俺はお前が心配なんだよ!!」



こんなに取り乱した芽依を見るのは二回目だ。ファンの子から嫌がらせをされていたとバレたときもこんな感じだった。

てことは、今もそれと同じくらい重い【何か】が彼女に襲いかかってるっとこと?

いくら馬鹿な俺でも、泣いている芽依と彼女を見て顔を歪めている山Pを見ればそんなことすぐにわかった。



「お前が5人のこと本気で大切に思ってるってことわかってる。でもだからってなんで芽依が傷つかなきゃいけない?」


山Pの腕の中で泣きじゃくっている芽依。



「もう自分犠牲にするのやめろよ‥」




詳しい事情はわからないけれど。俺達5人が何らかの形で芽依に迷惑をかけているらしい。

そのとき俺の横を誰かが通り抜けて行った。おそらく2人の元へ向かうため。
多分真相がわからなくてイライラした松潤だろうな。あの人短気なとこあるから。
しかし意外にもそれはリーダーだった。
俺達もリーダーの後ろに続く。その足音に気づき芽依は顔を上げて真っ赤な目を見開いた。


「リーダー‥‥え、みんなも‥」

「ごめん、今の聞いてたんだ」
「どういうことなの?」

「俺達今お前に何が起こってるのか全くわかんねーよ」


すると山Pはいきなり立ち上がって中心にいたリーダーの胸倉を掴んだ。


「ちょ、智久!」

「なんでもっと早く気付いてやらなかったんだよ!!なんでもっと‥こいつの気持ちわかってやらなかったんだよ‥っ!」

俺らが必死に止めようとしたが、それはリーダーによって阻止された。


「おいら達に原因があるんだもん、そりゃ怒れるよね」

「‥‥‥」

「でも怒るならまず説明してくれない?じゃなきゃフェアじゃないじゃん」


こんなこと今思ってる場合じゃないんだろうけど、ふわりと微笑むリーダーを見て、ホントにこの人は凄いって思った。相手に対して怒ったりするわけじゃなく、だけど説得力がある。

山Pも渋々手を離して、芽依に話すように促した。それでも芽依はイヤイヤと首を横に振る。


「俺はこの人達は知る権利あると思うよ。芽依が自分を犠牲にしてまで守りたかった人達じゃん」

「でも‥っ」


「芽依」。リーダーがゆったりとした口調で言う。


「おいら達だって知りたいんだ。教えてくれない?」



ああ、やっぱりこの人は凄い。
俯いていた芽依も暫くするとゆっくりと頷いたから。


ここじゃ誰かに聞かれたらマズいという理由で俺達は楽屋へと移動した。
山Pは「嵐の中にお邪魔しちゃ悪いから」と言って自分の楽屋へと戻って行った。


それぞれが適当な場所に座ったところで芽依が口を開く。



「私ね、スタッフさんが話してるのを聞いたの」

「‥何を?」


言いにくいのか芽依は目を伏せた。


「最近みんなが遊んでるのを、その‥週刊誌の記者さんが嗅ぎ付けたみたいで。それで‥記事にするつもりだって」

「‥‥‥」

「でもそういうのって、社長が止めてくれるんだと思って思わず聞いたの、そのスタッフさん達に。そしたら‥"大金払ってまで隠蔽する内容でもないし、多少のスキャンダルは必要だ"って。でも、ただでさえ私がいることでマイナスになってるのにこれ以上悪いイメージをつけたくなかった、だから私‥!」

「その記者の所にお願いしに行った、と」


翔ちゃんの言葉に芽依は無言で頷く。

だんだんわかってきた。きっとこれから話されることが彼女をここまでボロボロにしたんだって。



「無駄だってことはわかってた。でも頼みに行くしか無かったの。‥そしたらその記者の人、考えてくれて、交換条件を出してきたの。記事を載せるのをやめるからその代わりに‥その‥‥」

「もういいよ、わかったから‥」


ガタガタと震える芽依の手をゆっくりと握る。

もう誰もがわかっていた。交換条件として出されたのはおそらく【セフレになれ】とか、まあそういった体の関係を求めるものだったんだと思う。
とにかく俺達を守りたかった芽依は言われるがままにその条件を呑んだ。


「昨日もその人と会ってたの?」と訊くとコクリと小さく頷いた。





「‥ごめん」


泣き腫らした大きな目がニノをとらえる。


「まさか芽依が俺らのためにそんなことしてたなんて知らなくて‥昨日無神経なこと言った」

「俺も、ごめん」

「ごめん‥」

「迷惑かけてごめん」

「芽依、ごめん。けど、」


リーダーは芽依の目の前まで来て目線を合わせるようにしゃがみこんだ。そして俺が握っていないほうの手を両手で優しく包み込んだ。



「こんなこと言う資格無いのかもしれないけど、芽依が俺らを守ってくれたように、俺らだって芽依を守りたい。辛いときは側にいてやりたい。‥こんなおいら達とこれからも一緒にいてくれる?」




ポロポロと零れる涙は拭うこともできずに流れ続けて、俺の手の甲にまで零れ落ちた。


「当たり、前じゃん‥っ!」


涙で湿ったその部分が、なんだか温かかった。




芽依が泣き疲れて寝ている間に、俺達5人は誓った。


もう芽依を絶対に泣かせない、俺達が守るんだ、と。





このあと謝罪を交えながら社長に、芽依と記者の関係が切れるようにしてほしいと頼んだところ快く承諾してくれた。
芽依の思いやりに心を撃たれたんだってさ。

どうやら向こうサイドも十代の女の子とそういう関係だったなんてバレたらやばいらしく無駄にお金を払うこともせずに交渉が成立したらしい。




5年以上経った今も、俺達は一瞬たりともあの約束を忘れたことはない。きっとこの先も、忘れることはないと思う。





5人の約束

(キミの知らない俺達の秘密)