ラブレター
「え、タケちゃん?」
ひどく驚いたような声が聞こえて顔を上げれば、予想通り目をまん丸にした芽依が立っていた。
久しぶりに会った芽依は、テレビで見るよりも少し顔色が悪いように感じた。あと、痩せた、かな。
嵐の勢いは留まることを知らないようで、芽依は相変わらず忙しい生活を送っているようだ。この仕事ではそれはとても喜ばしいことなんだけど。
何が言いたいかっていうと、いくら精神的に辛いことがあったとしても休めるような職業じゃないから、心配になって来てみた。
「え、いつからいたの?」
「…わかんね」
今日、俺を担当してくれたメイクさんが昨日は理くんを担当したみたいで。「向井さん、彼女と別れたらしいですよ」なんて言ってきたもんだから、鳩が豆鉄砲を食らったような顔をしてしまった。そのメイクさんは知らないみたいだったけど、理くんと芽依が付き合ってることを俺は知っていたから。
なんだかいてもたってもいられなくなって、仕事が終わるや否やすぐに芽依ん家に向かった。
連絡でも入れとけば良かったのかもしれないけど、断られるのが怖くてできなかった。
引っ越し後の家に来るのは初めてで、相変わらず広い部屋を見て少し切なくなった。
俺の大好きなミルクティーを出してくれて、向かい側に芽依が座る。
今日はどうしたの?と表情が語り掛けている。
「あのさ、今日聞いたんだけど」
「うん?」
「…理くんと別れたってホント?」
瞬間、芽依が固まった。
ホントだよと言われなくても、それが真実だということは一目瞭然だ。
暫く沈黙が流れる。
どれくらいの時間だったかわからない。もしかしたら10秒くらいだったかもしれないけど、俺には長く感じた。
…芽依はどんな心境なんだろう。
もし泣きたいなら、思いっ切り泣かせてやりたい。それで、俺がその涙を拭ってやる。
この俺の願いとは裏腹に、全く泣く素振りを見せない芽依。
それどころか微笑んでいるように見える。
「…一緒にいると辛いんだって」
「え、」
「理くんに言われた言葉」
どこかで聞いたことがある、その台詞。
…思い出した。ヒロくんが言っていたんだ。芽依と別れた理由を聞いた俺に言ったんだ。
¨付き合ったって芽依が俺だけの物になるわけじゃなかった¨
¨彼氏は俺なのにって思っちゃうこと、何度もあった¨
¨ダセェけど、その状況に耐えられなくなったの、俺が¨
¨芽依と付き合ったって辛いだけだ¨
理くんもヒロくんと同じことを感じて、同じように別れを選んだんだ。
もしかしたら芽依の中で、トラウマになっているんじゃないだろうか。
ヒロくんにも理くんにも「一緒にいても辛い」と言われて、傷ついてるんじゃないだろうか。
「芽依、」
「ん?」
「あのさっ、俺は――」
そこまで言いかけた途端、芽依の携帯が着信を知らせた。
ちょっとごめん、と一言断り、部屋の隅で電話している芽依を見つめながらハッとする。
(…俺、今何を言うつもりだった?)
弱みにつけこもうとしていた自分を殴りたくなる。
冷静に考えてみろ、俺。
芽依が今まで付き合ってきたのは、ヒロくんや理くんのような、男から見てもかっこいいような人ばかりだ。
たとえ気持ちを伝えたって、受け取ってもらえる可能性なんてほぼ0%に等しい。
「ごめん、話の途中だったよね?」
「いや、もういいんだ。それより電話大丈夫だった?」
「あぁ、うん。明日の入り時間が早くなるってだけ」
「そっか」
「…タケちゃんさ、私のこと心配して来てくれたんでしょ?」
そう言って微笑んだ芽依は眩暈がするほど綺麗だった。
「ありがとね。でも私、大丈夫だから」
これが演技なのか本当なのか、情けないことに判断できない。
どっちにしろ芽依は俺に気ぃ遣ってくれているわけで。
自分が今辛いはずなのに涙も見せず俺のことを気遣ってくれる芽依は、やっぱりどうしたって俺には手の届かない存在だ。所謂“高嶺の花”ってやつに恋してるんだ、俺は。
確かに芽依は目の前にいるのに、どうしてかこんなにも遠く感じる。
こんなにも距離があるのに気持ちを伝える勇気を、あいにく今の俺は持ち合わせていない。
だから今は、こんなにも芽依を好きになれて幸せだって。ただ俺に笑いかけてくれるだけでいいんだって。
そうだよ。そうなんだよ。
そうやって自分に言い聞かせた。
ラブレター
(だから僕は思うだけ、君が大好きです)
ひどく驚いたような声が聞こえて顔を上げれば、予想通り目をまん丸にした芽依が立っていた。
久しぶりに会った芽依は、テレビで見るよりも少し顔色が悪いように感じた。あと、痩せた、かな。
嵐の勢いは留まることを知らないようで、芽依は相変わらず忙しい生活を送っているようだ。この仕事ではそれはとても喜ばしいことなんだけど。
何が言いたいかっていうと、いくら精神的に辛いことがあったとしても休めるような職業じゃないから、心配になって来てみた。
「え、いつからいたの?」
「…わかんね」
今日、俺を担当してくれたメイクさんが昨日は理くんを担当したみたいで。「向井さん、彼女と別れたらしいですよ」なんて言ってきたもんだから、鳩が豆鉄砲を食らったような顔をしてしまった。そのメイクさんは知らないみたいだったけど、理くんと芽依が付き合ってることを俺は知っていたから。
なんだかいてもたってもいられなくなって、仕事が終わるや否やすぐに芽依ん家に向かった。
連絡でも入れとけば良かったのかもしれないけど、断られるのが怖くてできなかった。
引っ越し後の家に来るのは初めてで、相変わらず広い部屋を見て少し切なくなった。
俺の大好きなミルクティーを出してくれて、向かい側に芽依が座る。
今日はどうしたの?と表情が語り掛けている。
「あのさ、今日聞いたんだけど」
「うん?」
「…理くんと別れたってホント?」
瞬間、芽依が固まった。
ホントだよと言われなくても、それが真実だということは一目瞭然だ。
暫く沈黙が流れる。
どれくらいの時間だったかわからない。もしかしたら10秒くらいだったかもしれないけど、俺には長く感じた。
…芽依はどんな心境なんだろう。
もし泣きたいなら、思いっ切り泣かせてやりたい。それで、俺がその涙を拭ってやる。
この俺の願いとは裏腹に、全く泣く素振りを見せない芽依。
それどころか微笑んでいるように見える。
「…一緒にいると辛いんだって」
「え、」
「理くんに言われた言葉」
どこかで聞いたことがある、その台詞。
…思い出した。ヒロくんが言っていたんだ。芽依と別れた理由を聞いた俺に言ったんだ。
¨付き合ったって芽依が俺だけの物になるわけじゃなかった¨
¨彼氏は俺なのにって思っちゃうこと、何度もあった¨
¨ダセェけど、その状況に耐えられなくなったの、俺が¨
¨芽依と付き合ったって辛いだけだ¨
理くんもヒロくんと同じことを感じて、同じように別れを選んだんだ。
もしかしたら芽依の中で、トラウマになっているんじゃないだろうか。
ヒロくんにも理くんにも「一緒にいても辛い」と言われて、傷ついてるんじゃないだろうか。
「芽依、」
「ん?」
「あのさっ、俺は――」
そこまで言いかけた途端、芽依の携帯が着信を知らせた。
ちょっとごめん、と一言断り、部屋の隅で電話している芽依を見つめながらハッとする。
(…俺、今何を言うつもりだった?)
弱みにつけこもうとしていた自分を殴りたくなる。
冷静に考えてみろ、俺。
芽依が今まで付き合ってきたのは、ヒロくんや理くんのような、男から見てもかっこいいような人ばかりだ。
たとえ気持ちを伝えたって、受け取ってもらえる可能性なんてほぼ0%に等しい。
「ごめん、話の途中だったよね?」
「いや、もういいんだ。それより電話大丈夫だった?」
「あぁ、うん。明日の入り時間が早くなるってだけ」
「そっか」
「…タケちゃんさ、私のこと心配して来てくれたんでしょ?」
そう言って微笑んだ芽依は眩暈がするほど綺麗だった。
「ありがとね。でも私、大丈夫だから」
これが演技なのか本当なのか、情けないことに判断できない。
どっちにしろ芽依は俺に気ぃ遣ってくれているわけで。
自分が今辛いはずなのに涙も見せず俺のことを気遣ってくれる芽依は、やっぱりどうしたって俺には手の届かない存在だ。所謂“高嶺の花”ってやつに恋してるんだ、俺は。
確かに芽依は目の前にいるのに、どうしてかこんなにも遠く感じる。
こんなにも距離があるのに気持ちを伝える勇気を、あいにく今の俺は持ち合わせていない。
だから今は、こんなにも芽依を好きになれて幸せだって。ただ俺に笑いかけてくれるだけでいいんだって。
そうだよ。そうなんだよ。
そうやって自分に言い聞かせた。
ラブレター
(だから僕は思うだけ、君が大好きです)