俺が芽依の家に行くときは、いつもどこか浮き足立つというか、軽やかな気持ちだ。


しかし、今日の足取りは重い。
気持ち的にはそんなことはなく、むしろ高ぶっているのだが、自分の体重にプラスしてもう1人分加わっているのだ。

といっても、全然重くない。コイツちゃんと食ってんのか?って疑いたくなるくらい。


どうして俺が芽依をおぶっているのかというと、景子ちゃんにハメられたからだ。いや、向こうは俺のためにしてくれたみたいだし、俺だってこの状況に喜んでいたりするから、ハメられたって言い方は悪いかも。訂正しよう、景子ちゃんが仕向けてくれたからだ。



合い鍵でドアを開けて、ベッドまで運ぶ。

俺の任務はこれで終了。
もう少し居座りたい気持ちもあるけど、寝ている芽依を前に何もしないと誓えないので、もう帰ろう。


後ろ髪を引かれる思いで芽依に背を向ければ、グイッとシャツの裾を掴まれる。

そんなことするのはこの部屋に1人しかいない。


――振り向いちゃダメだ。

帰れなくなる。取り返しのつかないことになる。

わかってたのに、ちゃんとわかっていたのに。人間、欲には勝てないみたいだ。



しょ、ちゃ…行かないで…っ

――っ


ワンピースから伸びる、スラリと長い手足。足を動かすたびにチラチラとパンツが見えそうだ。
そして、酔っているせいで潤んでる瞳と上気した頬。

そんな芽依に見つめられて行かないでなんて言われて我慢できる男がいるだろうか。
…少なくとも俺は無理だった。


薄く開かれた唇に自分のそれを重ねる。行為はだんだんと激しくなっていき、舌を絡め合う。


ここで少しでも芽依が抵抗してきたら、さすがにやめていたと思う。
でもそんな様子は全くなく、芽依もガンガン攻めてくる。

俺のわずかに残っていた理性も消え去った。




ハッと冷静になったときには、全てが終わっていた。

乱れたまま眠っている芽依と、ベッドの横に置いてあるゴミ箱の中のティッシュとゴムが何があったかを嫌でもわからせる。


――遂にやってしまった。


付き合っていない女性と体の関係を持つことは、恥ずかしながら過去にもあって。それは酒の勢いだったり、男なら経験するやつも多いはずだ。

だけど、それとこれとは別。
一番やってはいけない相手と、してしまったのだ。

芽依は俺の欲望のままに抱いていい女じゃない。



芽依の乱れた衣服を正してやって、ゴミ箱の中身をビニール袋に入れる。そして、運良く置いてあった消臭スプレーを部屋全体にかける。結構音が響いて芽依が起きてしまうんじゃないかとヒヤヒヤしたが、…ん、と寝返りをうっただけだった。


……ごめんな


いくら抵抗しなかったからって、勝手なことしてごめん。
きっと芽依は覚えていないだろうからって、何も無かったことにしてごめん。

…芽依のこと好きで、ごめん。



ビニール袋を手に持って、外に出る。


数時間も経っていないのに、来たときよりも風が冷たく感じた。





君は知らない

(俺だけが知っていればいい)