「おはようございまーす」


やっと来た。

翔くんが来るのを今か今かと待っていたあたしは、すぐさま彼に駆け寄った。

あたしに気付き少し焦っている様子。


「おはよう、翔くん」

「お、おはよ」


…何かあったな。


近くにはスタッフさんや共演者の方もいたから、翔くんの腕を引っ張って隅のほうに移動する。


「え、ちょ、景子ちゃん!?」

「…昨日、どうだったの?」


昨日芽依を迎えに来たときと服は違うから、朝帰りってわけでは無さそう。
だけど明らかに動揺しているのを見ると、ただ家まで運んだだけとは考えにくい。


「べ、別にどうもしないよ。ただベッドに運んで帰ってきた」


目を泳がせながらそんなこと言っても説得力無いですよ、櫻井さん。


疑いの目を向けるあたしに、とうとう観念したのか渋々といった表情で口を開いた。


「…最後までヤっちゃいました」

「え、ヤったってつまり、」

「うん、まあ、そういうこと」

「嘘!やればできるじゃん!もしかしたら何もしないんじゃないかって心配だったんだよね」


芽依から「翔ちゃんはヘタレだよ」って聞いてたしね。


「…何も無かったほうが良かったよ」

「は?」
「何も無いほうが、良かった」


翔くんは、撫で肩を更に情けなく垂らしている。


「お互いが割り切ってるならそういうことしたっていいと思う。実際俺だってセフレいた時期あるし」

「うん」

「でも、芽依はそういうことしていい子じゃない。ほら、アイツすげえ純粋っつうか」

「言いたいことはなんとなくわかるけど」


普通、この業界に入ったら、色んな人と関係を持つようになる。彼氏じゃなくてもお互いのストレスの捌け口だったり、性欲処理だったり。
一般人からすれば理解できないようなことも、この世界では普通のこと。

でも芽依はそんなこと無かった。
何か事情が無い限り、彼氏以外とキスやエッチは絶対にしない。セフレだって作ったこと無いと思う。

幼い頃から芸能界に足を突っ込んでいるというのに、“自分”を持っている。
そんな芽依を、翔くんは“純粋”だと言うのだ。


「だから俺はこのことを芽依には言わない」

「……」

「景子ちゃんも芽依には――」

「わかった、言わない」


あたしがそう言い切れば、ホッとした表情で「ありがとう」と翔くんは言った。


「でも、」

「ん?」

「これを言ったところで、芽依と翔くんの関係が悪くなることは無いと思うけど」

「……」
「芽依が心広いの、翔くんだって知ってるでしょ?」

「…うん」

「それに、そんな簡単に壊れる絆じゃないでしょ、嵐って」


恋愛感情かは別として、芽依は嵐のみんなが大好きだ。

2人で飲んでたときも、「5人がいなかったらやっていけない」って言ってたし。


「エッチ1つくらいでどうにかなっちゃうなら、ここまでやってこれないでしょ」

「…ははっ、そうかも」


ようやく笑顔を見せた翔くん。


ちょうどそのとき、撮影を開始すると声をかけられた。
スタジオの準備ができたみたいだ。


翔くんはニヤリと笑ってあたしを見る。


「お嬢様、参りましょう」


負けじと微笑み返す。


「…景山のくせに生意気」





報告会

(てか俺って景子ちゃんに芽依が好きって言ったっけ?)

(聞いてないけど見ててわかった)

(えぇ!俺ってそんなわかりやすい!?)

(どうだろう。…まあ、あたしの目は節穴じゃないですから)