嵐としてデビューさせてもらって半年。

新グループデビュー、しかも前代未聞の女(もちろん私のこと)がいるからって、メディアには連日、かなり注目されていた。

最初は私のことを認めなかったニノと潤くんも今では普通に話しかけてくれるし、周りの認知度もグンとアップした。



しかし、全てが順風満帆なわけではない。
いや、むしろ上手くいかないことのほうが多いのだ。





「あんた、いい加減にしなさいよ!」



毎日毎日懲りずに待ち伏せして、ある意味尊敬してしまう。
でも彼女達からすれば、そこまでするほど私は邪魔な存在なんだろう。

どこで調べたのか知らないが、わざわざ私の最寄り駅までやって来て、言いたいだけ文句を言って暴力も当たり前。幸いなことに怪我させられるのは服で隠れる場所ばかりだから、5人にはバレていない。


こういうのは相手にしないのが1番だってわかってるから、特に反論もしない。彼女達の気持ちも理解できないわけじゃないから。好きなアイドルと無条件で一緒にいられる女が憎いのも仕方ない。



「まだわかんないの?嵐に女はいらないの!」

「みんな迷惑してんのよ!!」


認めたくない気持ちだって、わかるんだ。

でも私だって辞めるつもりはないから、納得してもらえるように頑張るしかない。



「ちょっと、聞いてんの!?」

「マジムカつく!!」


グイッと髪の毛を引っ張られる。
いくら女同士だからって、私なんかより遥かに年上の人ばかり。力では負けてしまう。


「――ったい!」


思いっ切り殴られてしまい、勢いよく地面に倒れ込む。体に、顔に、髪に砂がつくけどそんなの気にならない。

更に彼女達は私のお腹や背中を蹴りまくる。


「男好き!!」

「さっさと辞めろブス!!」

「ファンを怒らせると怖いってこと思い知らせてやるよ!」


キャハハハ、と甲高い笑い声が頭の遠くのほうで聞こえる。



私のことをよく思ってない人がたくさんいることはわかってる。ファンレターだと思って見てみたら、悪口ばっか書いてある物だった、なんてこともしょっちゅうだ。


でも――
こんな私にも応援してくれる人がいる。男の人だけでなく、女の人も。本物のファンレターを送ってくれた人、街中で声をかけてくれた人。
それに、ニノと潤くんだってやっと認めてくれた。大野くん翔ちゃん相葉ちゃんも、ずっと味方でいてくれた。

その人達のためにも、今ここで辞めるわけにはいかないんだ。

腕や脚の痣や傷は隠せたけど、顔だけは隠しようがない。
仕方なくマスクをしていく。転んだとかなんとか適当なこと言って、メイクさんにお願いしよう。



おはよう、と楽屋に入れば相変わらず元気な相葉ちゃんが「おっはよー!」と飛び付いてきた。


「あれ、芽依風邪引いたの?」


黒目がちな瞳に覗き込まれる。


「う、うん」

「拗らせないようにしろよ」

「バカはなんとかって言うのにね」

「ちょっと!隠すほう逆だから!」


良かった。
今のところは誰も怪しんでる素振りは無い。



3人は既にメイクを済ましたらしい。ちょうど終わった潤くんが私を呼びに来て、メイク室へと向かった。

顔の傷を見せると、案の定メイクさんは驚いて、どうしたのかと聞いてきた。


「ちょっと転んじゃって」

そう答えると、

「随分派手に転んだわねぇ」

と何も疑う様子も無く、ファンデーションを塗られる。


さすが、プロの腕はすごかった。
あれだけ酷かった傷も今ではほとんど目立っていない。


いざ撮ってみてもパッと見は全然わからなくて。でも万が一のときは編集者さんに修正を頑張ってもらおう、とお願いはしておいた。




「なぁ、芽依ホントに風邪引いんの?」


楽屋に戻るや否や、潤くんがこんなことを聞いてくるもんだから、私の心臓は飛び跳ねた。

「え、なんで?ホントに決まってんじゃん」

「だってさー、風邪の割には喉も鼻も普通っぽいし、顔色だってそんなに悪いようには見えねえもん」


ただただ潤くんの観察力に脱帽した。


「確かにそうだな」

「バカが風邪引くなんて可笑しいですからね」

というニノの冗談にも、今は笑うことしかできない。



「…芽依、俺らが気付いてないとでも思ってる?」

「え、ちょっ!?」


すぐ横にいた大野くんにTシャツの袖を捲られる。
そうすればもちろん、傷跡がたくさん出てくるわけで。


意外と大野くんって行動的なんだなあ。
…ってちがくて!

5つの視線を感じて、俯くことしかできない。
メイクさん用にだけど、言い訳だって考えたのに何も出て来ない。頭が真っ白になってる。



「芽依から言ってくれるまで知らない振りしようってなってたんだけど…」

「顔にまで傷作られちゃぁ黙ってられねえよ」

「なんで俺らに言わなかったの」



“なんで俺らに言わなかったの”?

――そんなの、言えるわけないじゃん。


「そんなに俺ら頼りない?」

「違う!そんなんじゃない!」


眉を下げる翔ちゃんを見たら、自然と否定の言葉を発していた。


違うよ、そうじゃないの。
そうじゃなくて。


「…泣くほど辛いなら言えよ」


違う、辛いから泣いてるわけじゃないの。


「言えるわけ、無いじゃん…」

「なんで?」


間髪入れずに聞いてくる潤くん。

…ここまで来たら、もう隠し通せない。





「みんなのファンのことを、悪く言えないよ…っ」


堪えきれなくなった涙がポロポロと零れ落ちた。

芽依を先に家に送り届けてから、俺らもマネージャーの車で芽依の最寄り駅付近まで乗せてもらった。

「あんま問題になるようなこと言うなよ」と言われたけど、ちゃんと俺らを乗せてくれる辺り、マネージャーも芽依のことを心配してたんだと思う。



少し歩いて駅の近くの公園に着くと、数人の女の子達が屯(たむろ)しているのが見えた。

(アイツらか…)

直感的にそう思った。


そう感じたのは俺だけじゃないらしい。隣を見れば、みんなの目線が幾分か鋭くなっている。



「昨日さ、顔殴ったのはさすがにヤバかったかもね」

「うん、まぁでも何度言ってもわからない芽依が悪いっしょ」

「それにあんな怪我くらい化粧でどうにでもなるし!」

「そっかぁ〜、逆に懲りるかもね」

「あれで懲りなかったらどんだけ図太い神経してんだよ!」



腑が煮えくり返るような感覚を、グッと我慢する。


落ち着け。落ち着くんだ。

ここでキレたりすれば、問題になるのは目に見えてる。キレるわけにはいかないんだ。



こういうときに頼りになるのは翔くんで。女の子達に声をかけたのも翔くん。


「え!?」

「翔くん!え、嵐!?」


芽依が言っていたように彼女達は俺らのファンなようで、獲物を見つけた雌豹のような顔をしている。(…失礼か?)


「今日は芽依来ないよ」

「え、」

「……芽依に暴言吐いたり殴ったりするの、やめてもらえないかな?」

「…なんの話?」

「とぼけてんじゃねーよ!」

「ニノ!」

殴りかかりそうになったニノを相葉くんが止める。この人もなんだかんだ言って年上なんだ、と思い知らされた。


今までずっと黙ってた大野くんが前に出る。


「芽依、ずっと黙ってたんだ」

「え?」

「俺らに気付かれないように必死に隠してた」

「……」



つうか、ここで待ち伏せてたってことは今日も芽依に何かしようと思ってたってことだよな?

俺だってアイツがジュニアに入った頃は認めてなかったし冷たいこともたくさん言ったけど、手は上げなかったぞ。

まだ13歳の女の子相手にいい歳した女がよってたかって…ふざけんな。


一体芽依はどれだけの傷を1人で抱えていたんだろうか。
それと同時に、“芽依が言ってくれるのを待ってた”なんて綺麗事を並べて、結局は逃げていただけの自分達にも嫌気がさした。

なんでもっと早く救ってやらなかった?
俺が見て見ぬ振りをしている間にも芽依は苦しんでいたというのに。



女の子がジャニーズに入るということはこういうことなんだ。

前途多難なことは芽依だけじゃなく誰もがわかっていた。だけど。さすがにあそこまで傷を残すのはどうかと思う。



「何で俺らに言わなかったのか聞いたら、アイツなんて言ったと思う?」


声が震える。情けねえ。


「『みんなのファンのことを、悪く言えない』って」

「え…」

「泣きながらそう言ったんだよ」


俺の代わりに答えた大野くんの言葉に女達は黙り込んだ。


「俺らもキミ達のこと嫌いになりたくないんだ」
「……」

「だからもう、直接危害加えるのはやめてもらえないかな」


文字にしてみるとそんなに思わないけど、このときの翔くんの言葉は有無を言わせないほど鋭かった。



「…ごめん、なさいっ」

「っなんでお前が泣くんだよ!泣きたいのは芽依のほうだろ!」

「ごめんなさい…っ」

「だから、なんで泣くんだよ…」

「ニノ、」


その女だけじゃない。
ニノも相葉くんも、翔くんも大野くんも。そして、俺も、みんな泣いていた。









それから彼女達と芽依にどういったやり取りがあったかは知らない。

けど、芽依が傷を作ってくることは少なくなった。(ドジだから自分で転んでやっちゃうこともある)


そしてその何年後かのコンサートで、見覚えのある女が芽依の団扇を持っているのを見かけた。

芽依は嬉しそうにその子に手を振っていた。


その女が以前芽依を殴っていたやつのうちの1人だったことを知るのは、それからもっとあとの話。





守りたいもの

(口には出さなかったけど、きっと5人の想いは一緒)