わだかまりは溶けて消えた
先に言っておくと、初めての彼氏だったわけではない。
付き合ってた期間が特別長かったわけじゃない。
生涯で1番愛した人というわけでもない。
「、芽依?」
大好きだった甘い声で名前を呼ばれると、今でも少し胸が音を立てる。
「ヒロ…」
めっきり見る機会が減ってしまった姿は最後に会った日と全然違うはずなのに、彼が纏っているものは何ら変わりは無かった。
偶然だね!とか元気だった?とか、言うべき言葉はたくさんあるのに、お互いそれを発することはせず、ただただ目が離せない。
ここがコンビニという人目がある場所だとようやく気付いたのは私だけでは無かったらしい。「少し時間あるか?」と誘われ、私は彼について行くのだった。
と言っても、どこかのお店に入ることはせず、近所の公園のベンチに腰を下ろした。
まだ夕方だというのに人影は無い。遊具も何もない、こじんまりとしたところだからか。
「…家、この辺だっけ」
「あ、ううん。近くで撮影しててその合間」
「ドラマ?」
「そう」
“月9”と言わない辺りは彼の気遣いなんだろうか。そんなことをしたって無駄なのに。
一昨年のこの時期も、私は月9の撮影に追われていて。旬くんも一緒で、由里子ともそれで仲良くなって…ヒロと再会を果たしたのもこの現場だった。
ただ、このときは今と違い、再会を果たすと言ってもそれなりに連絡はとっていた。
既に未練などは残っていなかったけれど、このときの私の役柄はヒロを一途に想い続ける女刑事で、嫌がらせかと笑ったもんだ。
「あ、絢香ちゃんは?元気?」
「あぁ、うん。今んところは」
絢香ちゃんと結婚したから私達の距離が開いたわけではない。あんなかっこいい記者会見を見て、誰が2人を祝わないでいられる?
今でも携帯にはヒロの名前は残っている。その番号やアドレスが表示されることは無くなってしまったけど。
いつからだったかなんて考えなくても答えはすぐに出た。
ヒロが事務所から独立したときだ。
別に独立したことに怒っているわけではない。ヒロにはヒロなりの考えがあってとった行動だ。頭だって良いんだから、行き当たりばったりの行動なわけがないし、それは私だってわかってる。
そうじゃなくて。
恋人同士じゃなくなったけど、それなりにいい関係を作れていると思ってた。でも彼は、私に何も言ってくれなかった。独立の事実を知ったのはメディアを通してだ。
一言くらい相談してほしかったと思うのは私の我が儘なんだろうか。“大事な人”と思っていたのは私だけだったんだろうか。
「俺、ずっと芽依に謝りたかったんだ」
「、何を?」
「…何も言わずに事務所やめたこと」
「……」
「それと、別れたときのこと」
ドクン、と心臓が大きく脈打った。
忘れたくても忘れられない。
¨芽依といると苦しい¨
そう言ったヒロの顔。そして、つい最近同じようなことを言った、あの人の顔も。
「お前あんとき映画の公開控えてて、すげえ忙しそうだったから言えなかった」
「でも話聞くくらい――っ」
「芽依、わかってくれよ」
これ以上負担を増やしたくないっていう俺なりの愛情だったってことに。
…ズルい。
そんな優しい瞳を向けられると、何も言えなくなるじゃない。
「…別れたときは自分のことでいっぱいいっぱいでさ、気付けなかったけど」
「……」
「芽依なりに俺を愛してくれてたことも、今ならわかる」
「ヒロ、」
「ちょっとばかり素直じゃなくて、愛情表現が下手くそなだけなんだよな」
「…うるさいなぁ」
「はは、やっぱ素直じゃない」
私のことをわかってくれたのは嬉しい。
でも、ヒロをこうしたのは絢香ちゃんなのかなって考えると、少し妬けた。
「俺、今でも芽依のこと好きだよ」
「え?」
「でもそれは絢香に対する物とは違くて」
――なんて言うか、愛、みたいな。
どうして今になってそれを言うの。あぁ、もう、泣きそうになっちゃったじゃんか。
ヒロのバカ。
わだかまりは溶けて消えた
付き合ってた期間が特別長かったわけじゃない。
生涯で1番愛した人というわけでもない。
「、芽依?」
大好きだった甘い声で名前を呼ばれると、今でも少し胸が音を立てる。
「ヒロ…」
めっきり見る機会が減ってしまった姿は最後に会った日と全然違うはずなのに、彼が纏っているものは何ら変わりは無かった。
偶然だね!とか元気だった?とか、言うべき言葉はたくさんあるのに、お互いそれを発することはせず、ただただ目が離せない。
ここがコンビニという人目がある場所だとようやく気付いたのは私だけでは無かったらしい。「少し時間あるか?」と誘われ、私は彼について行くのだった。
と言っても、どこかのお店に入ることはせず、近所の公園のベンチに腰を下ろした。
まだ夕方だというのに人影は無い。遊具も何もない、こじんまりとしたところだからか。
「…家、この辺だっけ」
「あ、ううん。近くで撮影しててその合間」
「ドラマ?」
「そう」
“月9”と言わない辺りは彼の気遣いなんだろうか。そんなことをしたって無駄なのに。
一昨年のこの時期も、私は月9の撮影に追われていて。旬くんも一緒で、由里子ともそれで仲良くなって…ヒロと再会を果たしたのもこの現場だった。
ただ、このときは今と違い、再会を果たすと言ってもそれなりに連絡はとっていた。
既に未練などは残っていなかったけれど、このときの私の役柄はヒロを一途に想い続ける女刑事で、嫌がらせかと笑ったもんだ。
「あ、絢香ちゃんは?元気?」
「あぁ、うん。今んところは」
絢香ちゃんと結婚したから私達の距離が開いたわけではない。あんなかっこいい記者会見を見て、誰が2人を祝わないでいられる?
今でも携帯にはヒロの名前は残っている。その番号やアドレスが表示されることは無くなってしまったけど。
いつからだったかなんて考えなくても答えはすぐに出た。
ヒロが事務所から独立したときだ。
別に独立したことに怒っているわけではない。ヒロにはヒロなりの考えがあってとった行動だ。頭だって良いんだから、行き当たりばったりの行動なわけがないし、それは私だってわかってる。
そうじゃなくて。
恋人同士じゃなくなったけど、それなりにいい関係を作れていると思ってた。でも彼は、私に何も言ってくれなかった。独立の事実を知ったのはメディアを通してだ。
一言くらい相談してほしかったと思うのは私の我が儘なんだろうか。“大事な人”と思っていたのは私だけだったんだろうか。
「俺、ずっと芽依に謝りたかったんだ」
「、何を?」
「…何も言わずに事務所やめたこと」
「……」
「それと、別れたときのこと」
ドクン、と心臓が大きく脈打った。
忘れたくても忘れられない。
¨芽依といると苦しい¨
そう言ったヒロの顔。そして、つい最近同じようなことを言った、あの人の顔も。
「お前あんとき映画の公開控えてて、すげえ忙しそうだったから言えなかった」
「でも話聞くくらい――っ」
「芽依、わかってくれよ」
これ以上負担を増やしたくないっていう俺なりの愛情だったってことに。
…ズルい。
そんな優しい瞳を向けられると、何も言えなくなるじゃない。
「…別れたときは自分のことでいっぱいいっぱいでさ、気付けなかったけど」
「……」
「芽依なりに俺を愛してくれてたことも、今ならわかる」
「ヒロ、」
「ちょっとばかり素直じゃなくて、愛情表現が下手くそなだけなんだよな」
「…うるさいなぁ」
「はは、やっぱ素直じゃない」
私のことをわかってくれたのは嬉しい。
でも、ヒロをこうしたのは絢香ちゃんなのかなって考えると、少し妬けた。
「俺、今でも芽依のこと好きだよ」
「え?」
「でもそれは絢香に対する物とは違くて」
――なんて言うか、愛、みたいな。
どうして今になってそれを言うの。あぁ、もう、泣きそうになっちゃったじゃんか。
ヒロのバカ。
わだかまりは溶けて消えた