スタッフさんが買ってきてくれたコーヒーは無糖だった。

いや、仕方ないんだけどね。
それに飲めないわけじゃないし。少し甘いほうが好きだけど。


プシュッと音を立ててタブを開ける。

飲んでみれば、…うぅ、やっぱり苦い。


「芽依、それブラック?」


私と違う種類のコーヒーを手に、香里奈ちゃんが近寄ってきた。


「うん、そうだよ」

「あのさ、良かったらあたしのと替えてくんない?」


そう言う香里奈ちゃんのは、微糖。


「いいよ、はい」

「やった!ありがとー」

「…こっちこそありがとうだよ」

「ん?聞こえないなあー」


渡されたコーヒーを口につけたとき、私が少し顔をしかめたのを見てたんでしょ?それで替えてくれたんだよね?
まったく、男前すぎるよ。


「もう、こんな男前が近くにいたら恋なんてできたもんじゃないよ」

「何それ、あたしなんか目じゃない男前が周りにいっぱいいるでしょうが」

「いやいや、香里奈ちゃんには負けるよ」

「あっはは!じゃああたしら付き合うか!」

「香里奈ちゃん愛してるぅ!」

「ふふ、あたしも」


…何言ってんだ、私達。


「…20代後半の女がこんなこと言い合ってさ、」

「虚しすぎるよね」


ドラマとリンクしすぎて辛いよ。

でも私は新村由衣と違って恋愛体質ってわけじゃない。だから切実に彼氏欲しい!って焦ってるかっていったら答えはNOなんだけど。


「木下優樹菜いるじゃん?」

「うん」

「仲良くてさ、この間家に遊びに行かせてもらったんだけど」


テレビではフジモンの愚痴ばっか言っている優樹菜だけど、見ただけでわかったんだ。
“この人と結婚できて幸せ”って、オーラがそう言ってたの。

結婚してからっていうかフジモンと付き合ってから、優樹菜は雰囲気が柔らかくなった気がする。言葉遣いとかそういうのは変わらないけど、…なんだろう、表情とか。


「それ見てたらなんか、結婚っていいなあって」


元々、結婚願望なんて無くて、“いつかできればいいや”程度だったんだけど。
なんか、刺激されたっていうか。


「今結婚したい相手がいるわけじゃないのに」

「…でも、あたしも思ったことあるよ、結婚したいって」

「そうなんだ」

「まあ、あたしはそのときの彼氏が好きすぎて、なんだけど」

「……」

「でも後悔はしてないよ」

だって結婚してたら、今ここにいられなかったかもしれないじゃん?


そう言って軽く笑った香里奈ちゃんは、空っぽになった缶を近くのゴミ箱へと投げ入れた。

弧を描いて落ちていくそれを、ぼーっと見つめる。


周りにも、自分自身にも嘘をついていたのかもしれない。

そんなことないって言い張っていたけど、きっと私は
理くんのことを引きずっていた。

多分、理くんに「やり直そう」って言われたらOKしてたと思う。…さっきまでの私だったら。



「…香里奈ちゃん」

「ん?」
「ありがとう、吹っ切れた気がする」

「ふふ、そ?なら良かった」


目の前で伸びをしているこの人は、本当に3歳しか違わないのかと疑ってしまう。
考えが違いすぎる。

私も28歳になったら、自分でこうやって考えられるようになるんだろうか。





無糖と微糖の違い

(…まずは無糖を好きになることから始めてみよう)