今年も無事に終わったFNS歌謡祭。
…いや、“無事”では無かったかも。色々とハプニングもあったし。

中でも衝撃的だったのが――



「あ!お疲れ様です!」

あー、あっちゃん。お疲れ〜


心無しか、芽依ちゃんはいつもよりぐったりしているようにも見える。


詳しいことはわからないけど、マイクか何かの音声トラブルで、嵐さんのステージは当初の予定とは大幅に変わった。
それでも6人は最後まで笑顔で歌いきっていたけれど。


「優子がお世話になってます」

ふふ、いえいえ

「ドラマ観てます。芽依ちゃんにつられてこの前泣いちゃいました!」

えー、本当に?あっちゃんを泣かせられるなんて光栄だよ〜


あんなトラブルがあっても、彼女が笑顔を欠かすことはない。スタッフを責めたりもしない。

やっぱり彼女は凄いと思う。


こうして私が芽依さんのことを尊敬しだしたのは、恥ずかしながら数年前からだ。









ジャニーズ事務所という将来が約束されたような場所で男に守られているような芽依ちゃんが、当時は大嫌いだった。
顔は可愛いけど、ああいうタイプは決まって性格が悪い。きっと彼女も裏では最悪なんだろう。

だからともちんがファンだということを知ったときは信じられなかった。


「あんな人のどこがいいの?」

「あんな人だなんて言わないでよ。芽依さんはマジで凄いんだから」


ともちんは渡辺芽依に洗脳されてるんじゃないか、と本気で心配になった。


「有り得ない…」

「あのねぇ、あっちゃん何か勘違いしてない?」

「してないよ。ともちんこそ大丈夫なの?」

「何が」

「趣味悪くない?」

「…怒るよ?」


冗談じゃない。何で私がキレられなきゃいけないんだ。
それもこれも全部渡辺芽依が悪いっていうのに…!

苦労の欠片も知らないような人に憧れを持つなんて、ともちんどうかしてる。しかもよりによって何であの女なんだろう。イケメンが揃ってるというのに。




考えが変わったのは、この日から数週間経った頃だった。



「ねぇ、ヤバくない?」

「渡辺さんでしょ?さすがにやり過ぎだよね」


女性スタッフ2人が渡辺芽依の話をしていた。

気にはなったが、彼女に対して興味を持っているみたいで嫌だったから、直接聞くことはせずに、携帯を触りながら聞き耳を立てた。


「トイレにいるときに水かけるって、まるで中学生のイジメだよ」

「風邪引かなきゃいいけど」


…あの人、イジメまでやってんの?やっぱり性格悪っ。

渡辺芽依が加害者側だと、当然のように思っていた。


「他のメンバーのファンなんでしょ?」

「妬みか〜」

「大変よね、渡辺さんも。初めてじゃないんだろうね」

「なんか慣れてたよね」


…ちょっと待って。
さっきからおかしい。

彼女達はまるで渡辺芽依がやられてるような言い方をしている。



変な意地なんか忘れるくらい、彼女のことが気になって、気付いたら彼女が撮影している場所まで来ていた。

が、中を覗いても姿は無い。


…って、私何してるんだろう。渡辺芽依なんてどうだっていいじゃない。
さっさと自分の持ち場に戻ろう。


そう思って戻る途中、たまたまトイレに寄ってギョッとした。

渡辺芽依がいる。

着替えたのだろうか、服はちゃんとしているけど、髪がまだ少し濡れている。


……


鏡に映る自分を、もの凄く怖い顔で見つめている。まるで般若のような。


…強くならなきゃ

「!」


違う。
泣くのを必死に堪えているんだ。


苦労を知らないなんてよく言えたもんだ。

一目見てすぐにわかった。
この人、めちゃくちゃ苦労してる。


――え?

「っ!」


ずっと見ていたからか、鏡越しに目が合ってしまった。

(ヤバい!)


てっきり、何見てんのよ?みたいなことを言われるかと思いきや、あ、すみません。ここ使いますよね?と言って彼女は私にぺこりと頭を下げた。


「あ、いや…」

こんなとこに居座られたら、迷惑でしたよね


何この人…。
こんな状況なのに、私のこと気遣ってるの?



¨芽依さんはマジで凄いんだから¨

…ともちんの言葉の意味、少し分かった気がするよ。


「あ、あのっ」

え?

「良かったらコレ使ってください」


運良く手に持っていたタオルを渡す。

芽依ちゃんは一瞬キョトンとしてから、ありがとうと微笑んだ。


その笑顔の綺麗さに驚いたっけ。

















あっちゃん?どうかした?

「へ?」

いや、反応無いから。疲れてるの?大丈夫?


芽依ちゃんとの出逢いを思い出してた、なんて恥ずかしくて言えるわけがない。


「あ、ちょっと考え事しちゃってて」

そっか。何かあったらいつでも言ってね?


…やっぱり芽依ちゃんは他人への気配りが凄い。

「ありがとうございます」


――そしてやっぱり彼女は、私の一生の憧れだ。





生涯ずっと憧れの女性