別れたから、というわけではないけれど、敬浩とはここ最近連絡をとっていなかった。

でもこの前、某歌番組で一緒になって、久しぶりに話した。それからちょくちょくメールするようになって、今日、ここに来ている。



ホント美味しい〜

「酒弱いお前でも飲めるっしょ?」

うん!


敬浩の行きつけだというバー。
私はあまりわからないから任せたら、私好みのカクテルが出てきた。苦味も無く、スッキリとした甘さがちょうどいい。


でも久しぶりだね、2人で会うの

「だな。歌番組で会うことはあったけど」

今年の4月だっけ。Mステ一緒だったよね

「そうそう」


でもあの時はお互いメンバーもいたから、特に喋ったりはしなかった。ただの挨拶程度で終了。


別れてから初めて?

「ひでーな、おい。何回かメシ食ったりしたじゃん」

あれ?そうだっけー


マジひでー、という非難の声を聞きながら、少し剥げてきた爪先を見る。
明日メイクさんにやってもらおうかな。役柄上、派手目なネイル。こんなの自分じゃ絶対出来ない。さすがはプロ。



店内は薄暗くて、ムード満点だった。

ライトの光がグラスの中の液体に反射して、神秘的な色になっている。


「なあ、芽依ってさ」

んー?

「今彼氏いんの?」

残念ながらいませーん

酔いが廻ってきたのか、少し頭がフワフワしてきた。
カクテル1杯飲んだだけなのに。ホント私ってお酒弱っ。


「じゃあさ―――俺とヨリ戻さない?」

    え?


フワフワした頭で、もう一度反復する。「ヨリ戻さない?」…いやいや、冗談。


なぁに、珍しく酔ってんの?

「こんだけで酔うわけねーじゃん」

……

「本気で言ってんだけど」


敬浩の真っ直ぐな視線に耐えきれなくて俯いた。

冗談じゃないことは顔と声のトーンでわかる。伊達に彼女やってたわけじゃないから。


敬浩のことは好きだ。
でもそれはゆっけに対する“好き”と同じで、友達として。

もちろん、付き合ってたときはちゃんと恋愛感情として好きだったけど。

だから、こんな気持ちじゃ彼とは付き合えない。断ろう。



¨まだ若いんだから、少しくらい遊びなよ!¨


そんなときに頭を過ぎった由里子のあの台詞。

由里子は由里子なりに私のことを想って言ってくれたんだって、知ってる。私に幸せになってほしいからってことも。


確かに敬浩は付き合ってたときも今も優しいし、大事にしてくれる。
それに一度好きになったことがあるわけだから、今後好きになるかもしれないし、一から始めるよりは可能性は十分にある。

だったら私は   、 。



…うん

「え?」

付き合って、ください

「  マジ?」


ギュッと抱き締められた体は温かくて。「大事にするから」そんな彼の想いが伝わってくるようだった。



――これで良いんだよね?

――私、間違ってないよね?





今日、恋をはじめます

(そう問い掛けても、答えてくれる人はいない)