目の前で、この俺が何故か片思いしているヤツが眠っている。これを端的な日本語で言やァ据え膳だ。端的に言わんでもそうだわ。なんで他人の前でこんな熟睡してんだ他の奴の前でやったら殺すぞ。仮にもヒーロー志望だろが死ね。いやもし死ぬことになったらその前に俺が犯し殺すけどな。

「……ん、」
「……ミョウジ、起きろや」
「ス───……」
「………」

起こすべきという良心と起きるなという欲望がぐるぐるぐるぐる渦巻いてウゼェ。結果、起こす気あんのかってほど音量を下げた声になったから、後者が勝ったと言える。当然、ミョウジは起きない。

そもそも、ここがコイツの部屋なら、俺が出て行くだけで済む。けどこの部屋は間違いなく俺の部屋で、こいつの寝るべき場所はここに無い。このまま横で寝ても構わねェが、俺はたぶん秒で襲う。
俺としてはこいつの匂いがするだろうこいつの部屋に俺が寝に行ってもなんの問題もねえが、俺もこいつも確実に夢遊病か何かを疑われる。あと俺はたぶんそこで何回か抜く。

叩き起こせばいいのに、こいつの寝顔を見てるとまるで動く気が起きねェ。もうここまでくると、こいつそういう個性持ってんじゃねえか?とすら思う。でなきゃこいつの寝顔を見つめ続けてもう48分も経ったことを証明できねえ。

にしても気持ちよさそうに寝てやがる。人の気も知らずに良いご身分なこった。柔そうな頬を撫でてみる。同じ男の肌なのに、なんとなく自分とは違う感触な気がした。

そうするとつい、さっきまでは敢えて見ないようにしていた、薄く開いた唇に視線が吸い寄せられた。穏やかに呼吸が出入りする場所。ここを塞げば、流石に起きるんじゃねェか? でけェ声で叩き起こすのも耳元で爆破すんのも、そう、近隣の住民に迷惑だしな。まあ此処は寮だが。

何でどうやって塞ぐ?こいつの口塞ぐモンなんか、そんなもん、一つしかない。

「……っ、……」
「…………ン……」

顔にかかった髪を避けてやって、改めて睫毛の長さとかを再認識しながら、俺の唇とこいつのそれをくっつけた。……柔らけえ。暫くそのままくっつけて、離して、また塞いだ。そう、今度はくっつけるというより、こいつの唇ぜんぶ俺ので覆い隠す感じのキス。味わうようになぞれば、なんとなく甘い気がした。
本当は舌いれて、ミョウジの苦しそうな声だの呼吸だのを聴きたい。そんで、それでも酸素奪い尽くすまで離してやらねェし、キスしながら服ん中に手ぇ入れて、薄っすら割れた腹筋とか、腰とか、胸とか触りてえ。そしたらきっと、キスの合間に必死で俺を呼ぶだろうから、「勝己って呼べ、ナマエ」っつってどさくさに紛れて名前を呼ぶし名前で呼ばせる。「ん、んん、ン……っ」うるせーなこちとら完全にダチとしてしか見られてねェ今のポジションから抜け出すの簡単じゃねぇんだよ妄想くらい好きにさせろや!!

「っぷは、……は、え、ばくごう……っ?」
「……っは、…………あ」
「な、なんで、いま、なに、え……?」
「……てめェが、起きねェからだろが」
「え、あ、悪い……?」

我ながら苦しすぎる言い分だが、混乱してるこいつは、顔を真っ赤にして口元を隠している。可愛いなクソが。いや、今はそこじゃない。
今まで散々我慢して、ついに日常的に俺の部屋で課題をやるとこまでこぎつけたのに、全部水の泡じゃねーか。誰だ起きるまでキスしっぱなしだったやつ。俺だわ。

「あ、の、爆豪」
「………んだよ」
「嫌だったら、爆破していいから、」
「……は?」

俺の返事を待たずに、俺の襟元を掴んで、鼻先と唇が一瞬、掠める程度に触れ合った。なにが起こった?夢か?夢か。こいつとキスやらハグやらエロいことやらエロいプレイする夢見て朝になって汚れたシーツを見ながら虚しい気持ちになったことなら何回かあるから、ある程度の耐性ならあるっちゃあるが。

「……おれ、爆豪のことが好き」
「…………勝己って呼べやクソが…………」

告るパターンなら何十通りと考えたが逆は想定してなかったから、予習も予測もできてなかったが、とりあえず今日はまだ、こいつを部屋に返さなくても良いらしい。マジか。こんなもん、マジで据え膳じゃねェか。
キスは革命


革命を起こしたのはどっちだ

title by 星食
2019.05.04