目が覚めたら病院にいた。怪我は殆どしてない。でも検査が一応あるらしく、3日間は入院らしい。記憶を辿る。任務は問題なく終わって、ただ最後、敵に何かの個性をかけられて、───そこから記憶がない。






俺の入院を聞き付けて最初にやってきたのは緑谷だった。大丈夫だと言ったらちょっとホッとしてた。敵の個性を受けたことも知っていたようで、まだどういう個性か分からないと言えば、少し複雑そうな顔で笑った。

仕事の前に寄ってくれたみたいで、「お見舞いの品とか持って来れなくてごめん」と足早に出て行った。帰り際、そういえばかっちゃんも心配そうだったよ、と言われたけど、それは誰だったか。聞き返したかったけど緑谷は急いでる感じだったので、たぶんパトロールの時間が迫ってるんだろう。お見舞いありがとう、とだけその背中に言って見送った。



次に来てくれたのは轟だった。昼休みに立ち寄ってくれたらしい。花まで持ってきてくれて、律儀なやつだ。

「そういえば朝、緑谷が来てくれてさ」
「そうなのか」
「ん。で、聞きてえんだけど、かっちゃん、って誰だっけ……?」
「……………」
「……? 轟?」
「ああ、いや。何でもない。………そいつは、」

ピピピピ、と端末の着信が響く。当然、轟のもので、その音を聞いた時の表情から察するに、緊急要請だろう。多方面で活躍する人気ヒーローだ、昼休みとはいえ、こんなところにいて良い人材じゃない。

「緊急だろ、気をつけてな。来てくれてありがと」
「ああ。………さっきの奴の、ことだけど」
「ん?」
「俺が知る限り、親友だと思う。お前の」
「え、」
「また来る。お大事にな」

一人になった病室で、言葉を頭の中で反復する。親友。俺の。だけど俺は知らない。なんで?緑谷や轟が知ってるなら、高校の友達のはず。それかヒーローになってできた人間関係とか?だめだ、今はスマホも無いし調べようがない。

その日の晩は眠れなかった。どれだけ考えても思い出せないから、きっと敵の個性の影響だろう。それが分かったところで、どうしようもない。そもそも、『忘れる』ということは、忘れているのが誰なのかも、そもそも自分だけでは『忘れているのがどうか』さえ、分からないから。





「よーミョウジ!元気そーじゃん!」
「元気だよ。元々怪我とかしてるわけじゃないし」
「安心したわ。入院は明日まで?」
「ん、明後日が退院日」

次の日の夕方、切島と瀬呂が来てくれた。上鳴は遠征で来られなかったけど心配してたとか、昨日あった事件の共有とか、また飲みに行こうとか、色んな話をした。

あの事を聞くべきかどうか迷っていると、切島がトイレに行くと言って席を立った。聞くなら今だ。瀬呂は勘も察しもいい。記憶に関することなんて、結構重い話の可能性がある。切島はそういうの、モロに受けちゃうからな。

「なあ、瀬呂」
「んー?どした、」
「かっちゃん、って誰かわかるか?」

瀬呂は一瞬だけ目を見開いて、そしてすぐに苦笑した。その顔で、なんとなく、俺がかけられた個性のことを知ってると気付いた。俺はまだ知らされてないソレは、明日、医者から聞く予定だったもの。でも瀬呂は知ってて、そしてたぶん轟あたりから、俺が『かっちゃん』のことを覚えてないことを知ったんだろう。

「……分かるよ。爆豪勝己っつーの。ヒーロー名は爆心地」
「ばくごう、かつき」
「名前聞いても、ピンと来ねえ?」
「うん……今のところ、何も」
「…………ま、その内思い出すって。だからあんまり考えすぎんなよ?」

瀬呂はポン、と俺の頭を撫でた。いつだったか、誰かにもそうされてたような気がするけど、誰だっけ。思い出せないから、子どもの頃のことかもしれない。

その後はまた他愛もない話をして、切島と瀬呂は帰っていった。




この日もまた眠れない。ばくごうかつきのことだ。轟の反応や瀬呂の言葉では、俺とそいつは仲が良かったらしい。他の奴のことは普通に覚えてるのに、どうしてそいつだけ忘れてしまったんだろうか。そういう個性だとして、解除されなければ、俺は一生思い出せないのか。

そのばくごうというやつは、薄情にも自分のことだけを忘れられて、どう思うかな。仲良かったって聞いたけど、俺のことは嫌いになるかなあ。






翌日、医者から敵の個性についての説明を受けて、「誰を忘れているかはもう気付いていますか?」と聞かれて、ハイと答えた。嘘じゃない。誰か、は知ってる。それがW誰Wなのかは分からないままだけど。

そしてその次の日、俺は無事に退院した。結局、個性のことは「誰か一人に関する記憶を消す」ものと説明された。思い出す条件などはまだ分かってない。医者がそう言うならそうなんだろう。対象がランダムに選ばれるなら、もっと昔に出会っていて今はまったく交流がないような、そんなどうでもいい人がよかったのに。




退院したその日の晩に、スマホに着信があった。ディスプレイを見る。『爆豪 勝己』と書いてあって、あの『ばくごうかつき』に間違いない。だいたい、俺のケータイにちゃんと登録されている番号なのに誰か分からないなんていうのは、俺がおかしいだけだ。

「も、し もし?」
『………ナマエか?』
「……ハイ、あ、うん」
『……………』
「……?あの、」
『今、家いんのか。一人かよ』
「うん、そう、だけど」
『………今から行く』
「え!?」
『20分で着く』

プツ、と電話が切れる音。絶対に知ってるはずなのに今は記憶がなくて知らない相手と会う時って、どんな顔をしたらいいんだ。そんな経験、もちろん無いから分からない。ていうか、俺の家も知ってるってことは来たことがあるってことだもんな。仲が良かったのは本当らしい。変な緊張が解けない中、軽く部屋を掃除した。

結論から言うと、爆豪はいたって普通に見えた。俺が自分のことを忘れていることも誰かしらから聞いて分かっていたようで、俺が聞けばぽつぽつと自分のことを話してくれて、あとは何でもない話題を中心に会話をした。
誕生日、好きな食べ物、高校のときのこと、今のヒーロー活動のことなど、爆豪の色んなことを知った。だけどそのどれも自分は既に知ってるはずのものであることが申し訳ないと思った。

結局、爆豪はそのまま帰った。なんだったんだろう。少し考えて出した結論は、爆豪はあまり気にしてないんじゃないか?ということだった。俺の記憶が有ろうが無かろうが、爆豪にとっては大したことじゃなく、今から少しずつ関わっていって、そのうち思い出せればいい、くらいに思ってくれてるんじゃないか。そう結論づけて、普通に過ごすことにした。

爆豪はそれからも、時々俺に連絡を寄越しては、飲みに誘ってくれたりした。飲みながら取り留めのない話をするのが楽しかった。沈黙が嫌じゃなかったり、会話のテンポが合ったり、一緒にいて心地よいと思えた。話していて分かったことは、爆豪は口が悪いということ。だけどその言動に反して頭の回転が早く、第一印象よりずっとコミュニケーションが上手かった。



だけど、何度会っても、一緒にいても、俺の記憶は戻らない。爆豪は、W退院してから仲良くなった『ばくごうかつき』Wのままだった。だからそれはきっと、爆豪にとっても同じことだ。

その証拠に、爆豪は時々少しだけ寂しそうな表情をする。ほんの一瞬だけど、確かに影がさす瞬間がある。たぶん、W俺Wに会いたいと思ってくれてるんだろう。今目の前にいるW退院してから出会ったミョウジ ナマエWじゃなくて、爆豪との思い出を全部知ってるW俺Wに。



爆豪にとって今の俺は、偽物だ。一度そう気付いてしまったら、何故だか会って話をするたびに心臓が痛くなってしまったので、俺は徐々に爆豪からの連絡を断るようになった。



▽▲▽▲▽



そんなある日、爆豪から『今から家行く』、とメッセージアプリで連絡があった。なんの前置きもなく、突然だった。時刻は23時すぎ。今から?なんで?最近は、連絡をまともにとっていなかったはずなのに。
普通は友達の家に行くのは躊躇う時間帯だ。『別にいいけど、どうした?』と平静を装ったようなメッセージを送ったけど、それに返事は帰って来なかった。



インターフォンが鳴って、少し緊張しながらドアを開けると、切島に支えられた爆豪がいた。爆豪は酔っているようで、足取りがふらついていた。

「わりィミョウジ、コイツどうしてもミョウジの家が近いからっつって聞かなくてさ……。一晩泊めてやってくんね?」
「そ、れは、良いけど……。爆豪、明日休みなの?」
「……やすみ」
「…………わかった。いいよ、俺も休みだし」
「助かるわ。ほらバクゴー、靴脱げ!部屋ん中運んでやるから、」
「てめぇは入んなクソかみ!」
「あー、切島、俺が連れてくから良いよ。後は任せて」
「わりィなミョウジ、ありがとな。おやすみ!」
「おやすみ」

夜でも元気な切島を見送ったら、爆豪はなんとか一人で歩けたようで、既に我が物顔でソファに座ってぼーっとしていた。とりあえず水を飲ませて、それから適当な部屋着に着替えさせて……寝るのはベッド貸してもいいけど、変に気を遣いそうだしどうしようかな。

とりあえず上着を脱がせようと声をかけると、腕を取られてそのまま、強く引っ張られた。酔っ払いのくせに力が強くて踏ん張れなくて、そのまま爆豪の膝の上に、向かい合わせに跨るように乗せられた。俺の身体の後ろで手を組んだのか、身体が固定されていて、退くことができない。いや、いくら片方が酔っ払いだろうが、流石にこれは。

「……爆豪離して、流石に恥ずい」
「───……んでだよ」
「え、」
「なんで俺のこと、避けとんだ」

俺を抱き込んで、俺の腹に頭を押し付けるその仕草に、なんでか胸がぎゅっとなった。こいつ、こういう甘え方することあるんだな。微かに懐かしさがある気がして、もしかしたらW俺Wにもやってたのかもしれない。

思考の脱線に気付く。なんで避けるのか。なんで、だろ。爆豪が見ているのが俺じゃないから? 記憶がある俺に会いたいと思ってる爆豪を、これ以上見てられないから?

どんな答え方をしても、女々しくて何様だって答えになりそうで、声が出せない。



爆豪の眉間の皺が普段より2割増になって、眉がややつり上がる。キレられるな、と他人事みたいに思った。
だって、仕方ないだろう。避けていた理由を言わないといけないとして、W今の俺Wが言ったとして、そんなこと、おまえは望んでないくせに。

そう思いながらも、酒の入った無駄に色気のある爆豪から目が離せずに、じっとその眼と視線を合わせた。

「なんで、俺、なんだよ」

苛立ったようなその表情からは、まるでアテレコみたいに聞こえるほど不釣り合いな響きだった。死ぬほど似合わない静かな声で、ぽつりと呟かれたその言葉に、息が詰まった。

「なんでッ、俺のこと忘れとんだ。俺のことだけ、なんで、俺、だけ、なんだよ……」
「爆豪、」
「そんなに、忘れたかったかよ。他の奴らのことは全員覚えてて、俺との記憶だけ無くなって、俺が、俺がどんだけ苦しんでるか、分かっとんかてめぇ……ッ」

突然吐き出された言葉にフリーズした脳が仕事をするまでに、しばらくかかった。苦しんでると言った。憶測はやっぱり間違ってはいなくて、爆豪はやっぱり、W俺Wに会いたいと思っていたのだ。今目の前にいる俺じゃなくて、仲が良かった頃の俺。

何も言えない俺に、爆豪も言葉をやめて、沈黙。破ったのは自分のありきたりな謝罪の言葉で、何も前に進まないことを申し訳なく思った。

「ごめ、ん」
「…………ッ、分かってんだよ、てめェが悪いわけじゃねえってことぐらい、分かってっけど、……忘れられるくらいなら、好きンなってほしくなかったわクソが……!!」
「……は、」
「あの医者には伏せるよう言ったから知らねぇだろうが、てめェがクソ敵からくらったのはなァ、『最も愛してる人間の記憶を消す』個性なんだよ。
───笑えンだろ。俺はずっとてめェをモノにしてえと思ってたのに、同じ気持ちだって知ったときには、そいつから俺に関する記憶も気持ちもまるごと無えなんてよ、」

爆豪の言葉が入ってこない。悲痛な声が、表情が、俺には全然覚えのないはずのその様子から、目が離せない。

今の言葉に、当然ながら嘘はないんだろう。つまり、俺から爆豪の記憶だけがないのはW俺Wが爆豪を好きだったからで、爆豪はそんなW俺Wを前から好きでいてくれてて。だからW俺Wに会いたいんだ。ああ、心臓が痛いな。本当、なんでだろ。

「……それだったら、好きになんざ、ならなくて良いから……っ、嫌ったって良いから、俺のこと、死んでも思い出せやァ……っ!!」

泣きながら俺を抱きしめる爆豪の力は決して弱くないけど、そのがっしりとした腕は、体格は、今はひどく頼りなくて。俺に強く命令してる言葉の筈なのに、祈るみたいにして縋る爆豪がかわいそうで、申し訳なくて。


───だけど、もしも。例えばもしも、『最も愛している人間の記憶を消す』個性が、『その人間を嫌ったら思い出す』特性を仮に持っていたとしても、俺は爆豪を思い出せないよ。だって今、心臓が痛くて痛くてたまらなくて、これは、嫌いな人間に起こる反応なんかじゃないって、分かってるから。


そんなことは伝えられないから、「ごめん」と何度か言って、爆豪の背中をすこし撫でた。そしたら、ぎゅうぎゅうに抱きしめられていた手はゆっくりと緩められて、拘束が弱くなる。爆豪の手が、つむじのあたりからぽん、と頭を撫でた。瀬呂のときに感じた懐かしい感覚、これを何となく、知っている。



とにかくその涙を止めたくて、謝りたくて。俺は何を思ったか爆豪の頬に手を添えて上を向かせて、唇をくっつけた。

するとすかさず後頭部に手が回って、キスが深くなる。舌を絡められ歯列を辿ってくすぐられ、上顎をなぞられたときには、自分のものじゃないような声が漏れた。気持ちいい、あれ、なんで俺こんな、キス、誰と、俺に恋人はいないはず、じゃあだれ、が─────………!?

気持ち良さでくらくらする中、なんとか目を開けると、目を閉じた親友の顔。ばくごう、かつき、いや………………勝己………………!?

「ん、んんッ、ま、って」
「……今更逃げんなッ、口開けろや、」
「待ってって、……っ、勝己……ッ!」

ぴたり。

爆豪は動きを止めて、信じられないような顔をして俺を見た。なんで、って顔に書いてある。こんな顔を見るのは久しぶりだ。あと、俺はそろそろ限界だ。恥ずかしくて死ぬ。死んだら埋めて。ほんとに。

「……ナマエ、」
「……………」
「名前で、呼んどったこと、思い、出したんか」
「……………」
「…………なんで顔隠しとんだ」


名前で呼んでたこと、どころか。

高校のときから爆豪が好きだったこととか、ヒーローになってからもずっと片思いしてたこととか、ありとあらゆることを思い出して、死ぬほど顔が熱い。ついでにこの体勢が恥ずい。不謹慎だとは思うけど勃ちそう。でも爆豪の腕が俺の背中側で組まれていて脱出できない。

「恥ずくて死ぬから……」
「死んだら殺すぞ」
「それだと俺二回死ぬんだけど」
「ンなことより俺に言うことあんだろ」
「…………勝己のこと忘れて、ごめん」
「もう一個。あんだろーが」
「…………」



『最も愛している人間の記憶を消す』個性。

忘れていたのは、勝己のことだけ。


「……マジで、色々むりだから、一旦離して……」

まだ告白したわけでもないのにかかった個性のせいで気持ちがバレるとか。最悪すぎないか?しかも記憶ない状態で自分からキスって。それで思い出したから結果オーライかもしれないけど。でもなんかキスの感触は覚えてて、勝己の舌が俺の口ん中侵して、気持ちよかっ……、ああもう無理。


「このタイミングで離すワケねぇだろ」


勝己が俺を抱えて立ち上がった。子どもを抱っこする感覚の体勢で、恥ずかしさはさっきまでの比じゃない。そして相変わらず力強い。そこまで身長変わらないのに、軽々運ばれるって。

勝己は俺をベッドに下ろして、そのまま押し倒した。ふかふかだから背中は痛くないけど、突然のことでびっくりして、思考がうまく回らない。
俺の上に勝己が跨って、腕を頭の上で拘束されたら、顔が隠せなくて。勝己の顔は逆光で見えにくいのに、ずるくないか。顔を見られたくないし、キャパオーバーで勝己の目が見れない。どんな顔をしたらいいか分からない。

そう思ってたら、覆い被さるようにしてそのまま全身で抱きしめられた。勝己からは、酒の匂いに混じってニトロの甘い匂いがして、ぐらりと思考が溶けるみたいに感じる。

「今俺が何考えてっか分かるか」
「……わ、かん、ない」

勝己の方が背が高いし体格も良いから、俺は今勝己の腕の中にすっぽり収まっていて、そのまま喋られたら耳にダイレクトに声が響いて落ち着かないからやめてほしいけど、もちろんそんなことに気付いてはくれない。


「……覚悟しろや。これからじっくり、心にも、身体にも、教えこんでやる。二度と俺のことを忘れねえように」

………いや、ふつうに、今度こそ勃つかと思った。ていうかたぶんちょっと勃った。これは俺は悪くない。他意が無いとしても、言い方がやらしすぎるのが悪い。


とはいえ、俺に擦り寄る仕草は甘える犬猫のそれみたいに見えて、ちょっと可愛いと思ってしまった。恋は盲目っていうのはこういう特殊フィルターのことを言うのかもしれない。

「もう敵の個性にやられるヘマなんかすんな」
「……うん、ごめん」
「今回はしょうがねえとしても、何かあればまず一番に俺に言え。……入院して、最初に会ったのがデクだったのはムカついたからな」
「……わかった」
「それと、」

淀みなく話していた爆豪が一瞬躊躇って、そして腕の力が強くなった。

「俺ァ欲しいと思ったもんは意地でも手に入れる。そんで手に入れたら、誰にも渡さねえし一生離さねえ。覚えとけ」


好きと言ったわけじゃない。そして、好きと言われたわけじゃない。なのにこんなにも満たされて、幸せで、泣きそうだ。


「うん。───俺も、勝己がほしい」
「…………」
「…………?」
「…………………気が変わった。酔いも完全に醒めたし、今から抱く」
「…………は!?」
「煽ったてめェが悪ぃんだろが」

改めて組み敷かれてまもなく、呼吸が止まる。唇に噛みつかれるようなキスは、さっきたった一回しただけなのに、的確に俺を気持ちよくさせてくる。
思いが通じ合ったのはさっきのことで、だからこんな展開は早すぎる。心臓破裂する。そう伝えたいのに。


「………やっと、俺の、もんだ」


首元で、絞り出すようにして勝己がそんなこと言うから、ああもうこのまま好きにされてもいいか、なんて思ってしまった。


未完成な愛のこと

今は好きにして、そしてそのあと思い切り、好きだと言ってくれたら良いから

2019.05.21