轟に告白をした。いや、してしまった。

言うつもりはなかったけど、何かの拍子にあぁ好きだなあ、と思って、そしたら「好きだ」とストレートに言ってしまっていた。そしたら轟は、少し驚きつつも「俺もミョウジが好きだ」と言ってくれたけど、まあ、人生そんなうまくいくわけない。

友達に好きと言われて、気持ち悪いと茶化しもせずに、俺もだと言ってくれる優しい奴なのだ、轟は。そう、好きな奴が、変なことを言った俺にきちんと答えて、まだ友達でいてくれる。それで十分だろ。





─────と、思ったけど、俺の恋心はまさしく本物だったわけなので、失恋の痛みもまた本物である。最初から結果は見えていて、玉砕したのは自分の責任なのに、俺の馬鹿さも本物だったらしい。
当たって砕けろって、よくできた言葉だと思う。けど来世の自分にアドバイスでもするとしたら、砕けた後のことは考えた方がいいと伝える。




その日から、轟と話すのをやめた。話しかけられたら答えるし、演習で必要な作戦会議や業務連絡はちゃんとするけど、なんていうか、見てたらくっつきたくなって、話してたら好きって言いたくなって、一緒にいたら、抱きしめてくれないかなとか、手つないでくれないかなとか、そういう馬鹿なこと色々考えちゃうんだよ。仕方ないだろ。友達だって再認識した後でも関係ない。まだ好きなんだよこっちは!




そんなこんなで暫く接触を避けていた、ある日の夜。コンコン、と部屋がノックされたので「はーい」と返事をして呑気にドアを開けたら、そこにいたのは轟だった。ドアを閉めようとか何とか思う前に、轟が部屋に身体を入れた。運動神経ェ……。

「ど、したの、轟。課題とか?って言っても俺より頭いいもんな」
「……いや、特に用事はねぇ。けど、その前に下、穿いて、くれ」
「あー……、ごめん」

風呂上がりで暑いけど、冷房を入れるのが嫌とかいう女子みたいな考え方で、上は着てたけど下はボクサーパンツのみだった。ベッドに投げてたスウェットを穿くと、轟はようやく俺と目を合わせた。見苦しい格好見せてごめんって……。

「いつも、あんな格好してんのか」
「いや、風呂上がりだけだけど……。まあ真夏は暑かったらパン一で寝るけど」
「………………………そうか」

なにその間。

轟の様子がおかしい。それは分かる。なんか思いつめたような表情に見えるし、その割に顔は赤い。それがなんでかまでは分からないので、ひとつ考えうるとしたら、普通に体調が悪いのかもしれないってことだ。

「体調悪いなら部屋戻ったほうが───」
「違ぇ、大丈夫だ、何ともない」
「え、あ、うん、そう……?」

歯切れの悪かったさっきまでとは打って変わって、随分早口で話す。どちらも珍しい。いつもの轟じゃない。でもなんて言えば良いか分からなくて、相槌を打ったら会話が終了して、降りる沈黙。
轟といたら沈黙なんて気にならないって前なら思ってたのに、それもこれも全部、俺が好きとか言ったからだな。後悔。

轟は俺から視線を逸らして、何とも言えない顔をしてる。その横顔をじっと見てしまう。あーーーーーーー好き。まじで顔整ってんなあ。格好いい。髪サラサラ。この死ぬほど格好いいやつが、俺を好きになってくれて、俺に触れてくれて、手つないでくれたりして、キスとかしてくれるような、そういう風になる確率って、どれくらいなんだろ。まあゼロだよな。何回生まれ変わったら、そういう世界線に生まれるかだけでも知りたかった。



「……………ミョウジは」
「え?」
「ミョウジは、俺のことが好きなんじゃ、ねぇのか」

轟が言った言葉の意味が分からなくて、そう、なんて言ったかは聞こえたし理解はしてるんだけど、意味が、よく分からなくて。つまりはその問いかけに、どういう意味があるのかが分からない。
なんて答えたら正解?友達として好き、って言う?改めて自分でフラれた結果を再生しに行くのは結構勇気がいるんだけど。ていうかまじで、何でそんなこと聞くんだ。

鈍いだのなんだの言ったって、俺はこうして一緒にいるだけで幸せで、それと同時につらいんだって分かれよ。まあまさか友達だと思ってる奴にそんな風に見られたことはないだろうから、轟は悪くないけど。悪いのは全部、俺なんだけど。


「───好きだよ」
「っ、そう、か、俺も、」
「いい加減に、してよ。轟の好きと、俺の好きは違うんだって」

俺が好きだと言ったら、ホッとしたような顔をする轟を見るのがしんどい。表情はそこまで変わらないくせに、ちょっと嬉しそうな顔して、それが、俺にはしんどいんだって、何で分かんねぇの。頭いいくせに何で分かってくんねぇの。あーもうやだ。こんなんで泣きそうになるとか死ぬ。

腕に顔を埋めて涙を押し留める。轟はなにも悪くないのに、こんなことを思う俺はまじで最低だと思う。嫌われても文句言えないけど、今のまま近い距離で接しなきゃならないなら、いっそ嫌われるくらいがいいかもしれない。


もういいか。引かれたって何されたって、たぶん俺は、ずっとこいつが好きだ。だから無駄なんだよな。忘れようとする努力も嫌われようとする努力も。そんなんでどうにかなるほど、小っちゃい気持ちじゃないから。

「俺の好き、は、轟と手ぇ繋ぎたいとか、抱きしめてほしいとか、キスしたいとか、そういう好きなんだよ」
「っ、」
「だから、轟が思うようなもんじゃない。気持ち悪いならそう思っていいから、俺のことは放っといて」

ああ言ってしまった、これこそが後悔ってやつだろうか。
轟はぽかんとして、人形みたいに整った顔は見る影もないほどの間抜けな表情だ。

終わったな。明日からどうしよ。軽蔑した目で見られるか、警戒されるか、もっとヤバいかな。クラスのみんなに影響出ないといいんだけど。




「…………………たしかに、俺とはちげぇな」
「………そうだろ、」
「俺はそんなもんじゃ足りねぇ。手ぇ繋いで、抱きしめて、キスしたりは勿論してぇけど、そんなもんじゃなくて、もっとミョウジの色んなとこに触って、俺のだって確かめてぇ」



………………………ん?

いや、いやいや。いやいやいや。待って、なんか、酒でも入ってんの?ってくらい、とんでもないことをスラスラと言ってんだけど。

「ミョウジの全部が見てぇ。やり方しらねぇけど、ミョウジのこと抱いて、全部俺のもんにして、気持ちよくしてやりてぇし、俺の手で気持ちよくなってるミョウジが見たい」

俺の願望をはるかに超える轟のその台詞はいつもの涼しげな目元には似合わないけど、今はほんのり顔を赤くして温度の高い瞳で俺を見てるから、しっくりきてて余計にヤバい。

「お前のさっきみたいな格好見ると、なんか、ムラムラする」
「っは………!?」
「あの時、俺も好きだって言ったよな。その男の前で、無防備すぎねぇか?」
「と、もだちって、意味で、言ってんだと思って、」
「……………そうか、分かった」

轟の顔が近づく。どうして、と思う前に、唇がくっついた。思考回路がショート寸前。轟だけに。いやくだらなすぎてサムい。いやいやだって熱いんだって、顔が。だって目閉じる間も無くキスして、だからそのまま目を開けてたら、顔面偏差値でぶん殴るタイプのイケメンのドアップ。こんなん、無理だろ。

轟は何かが「分かった」って言ってたけど、俺は全然分かってない。

「これで俺が、ミョウジを好きだってこと、分かったか?」

ああ、それは、まあ、たしかに、分かった。分かったから、俺の太腿撫で上げるのやめて。

「さっきの格好、エロかったから、やっぱり俺と二人のときだけ、してくれ」
「……っ、すけべ……!」
「ああ。すけべでいい」

もう黙って!!!

或る日の青春


心臓破裂するからやめて、と言えば、それは困るなと笑ってまたキスをしてきた。だめだ全然わかってない。

2019.05.22