白昼夢に決まってるの続き







教え子にケツ狙われてる、なんて誰に言える?そんなん無理。誰にだって言えるわけない。じゃあ何、掘られそうになってる?……同じことだしなんか余計に生々しくなって嫌だな……。

昨日のあれそれを夢だと思おうと、夢だ幻だ疲れてただけだと50回くらい唱えて寝たけど、次の日に轟から電話が来て(高校卒業のときにせがまれて番号教えた)、「先生、寝坊してないか?昨日ちょっと疲れさせたから」みたいなことを言ったので、俺の詠唱むなしく、現実だという事実が叩きつけられた。

ついでに、なんかその行為の最後の方に謎の宣言された気するんだけどそれはもう忘れる。ハイ忘れた。




まあそんなこんなで俺は今、色々な面で危機に陥ってるわけだけど、とはいえあの二人は多忙だ。何せ、次のチャートでは緑谷を合わせた3人で一位を取り合う構図だろうというプロヒーローで、今勢いのある若手ヒーローたちの中でも、本当にトップを争う実力と人気だと思う。
だから、そもそも休み自体ちゃんと取れてるか心配なくらいだし、ましてやこないだみたいに二人ともが休みな日はそうそうないはず。




「……って思ってたのに何でいんの……!?」
「? 先生、何の話だ?」
「てめェが一人で飲む店なんか知ってるに決まってンだろが」

いやいや怖いから。轟は相変わらずのとぼけ具合だけど、爆豪は普通に勘も察しも良いからこわい。

「ていうか、なんでここ知ってんだよ……」
「だいぶ前に、先生がここによく来るって、イレイザーヘッドが教えてくれた」
「相澤あの野郎……!」

いつも立ち寄る居酒屋で、今日に限って何故かカウンター席が空いておらず、奥まったテーブル席で一人飲みしてたら、現れたプロヒーロー2人。入り口からは見えないはずなのに何でだ。そして、カウンター席ならすぐ逃げられるのに、テーブル席で両サイド固められたら出るに出れない。いやおかしい、どっちかは向かいに座ろうよ。

ここにこいつらがいるのは相澤のせいらしいけど、そもそも相澤の1〜2年次の教育のせいでたかだか3年次の一年間だけ担任した俺がこうなってんじゃないの?違う?俺のせい?何が悪かったんだよホント。

「……先生、あいざ……イレイザーヘッドと仲良いのか?」
「んー、年は俺のが下だけど、教師としては同期だし。まあたまに飲みに行くくらいかな」
「浮気かてめェ」
「いやいやいや何処が???」

会話がぶっ飛びすぎて訳が分からない。頼むから落ち着いて。そして爆豪ピッチ早すぎ。こんなメンバーなら俺が奢る流れでしか無いんだからな!たとえお前たちのが稼いでたとしてもな!!教え子の成長は時に泣けるらしい。今は色んな意味でだけど。

「てか、何か用事があって来たんじゃないの?」
「ああ、先生を口説きにきた」
「……ごめんちょっと聞こえなかったなー」
「嘘つけよ」

ハッと笑った爆豪は、俺の首元に手を滑らせた。ぐっと顔を近づけて、無駄に色っぽく笑う。マジで我らがヒーロー科の教育どうなってんだよ。高校のときもイタズラはあったがここまでじゃなかった……いやそういえば在学中に何回かこういう風に触られたことあった気がするけど、ただのカツアゲの類の何かと思ってスルーしてた。もしかしてその時からプロローグ始まってた?じゃあ当時咎めなかった俺のせいだよ。

爆豪が俺の唇を指でなぞる。挑発的になるとき、少し顎が上がるのは爆豪のただの癖だろうけど、その喉仏が見えて、あの日の光景が、快感が、フラッシュバックした俺はマジで馬鹿すぎる。こいつらの馬鹿さには惨敗だけどな!

「なあ、あの夜、気持ちよかったろ?」
「っ、ばくご、」
「もっと気持ちいいことしてやっから、俺らにカラダ委ねとけや」
「いや、どこのAV……、ッあ」
「なあ先生、ホテル行こう。先生に触りたい」

轟が耳を甘噛みする。甘えたような声が妙にエロいんだよなだからそれ彼女にやれよモテるんだからさぁあ……!






「いや、あの、待って、マジでやんの……?」
「ここまで来てお預けは無ェだろ」
「……ソウデスネ……」

結局あの後、先生お願い、と双方から言われ、かわいい教え子の可愛くない内容のお願いにどう返答すべきか迷っていると、無言を肯定と捉えたのか、ずるずると引きずられながら店を出た。どう考えてもポジティブすぎない?ちなみに会計は既に終わってた。いつの間に。たぶん爆豪だろう、お前も絶対モテるよ、俺にこんなことしなくても相手してくれる女の子そこら中にいるよ。

そしてものすごく高級な気しかしないラブホ?に男3人で入るって、いよいよこれマジで大丈夫?トップヒーローが写真とか撮られたらやばいだろ。てか俺は死ぬわ。社会的に死ぬ。あと夜道で二人のファンの女の子に刺されそう。

と、そんなことを考えていたら、なんと爆豪も轟も顔を隠さず、「例の部屋」とその一言だけでチェックインを済ませた。どうやらホテルの受付とは顔見知りらしいけど怖くて聞けずにいると、「前に任務で此処の社長を俺らで助けたんだ」と轟が説明してくれた。なんでも、そのときから疲れたらこのホテルで寝たりしてたらしい。ただ一応ラブホではあるらしいけど、もうわけ分からん……。



今は轟がシャワーを浴びていて、爆豪はベッドの上で俺の服を脱がせようとしている。そして俺はそれに抵抗の意を示しつつ説得しようとしている、が、爆豪の意思は固い。

個性で逃げられなくもないけど、この二人が本気を出せばすぐに追いつかれるだろうし、轟がいるから氷で身動き取れなくなったりしたらそれはそれでヤバい。だから逃げられない。もう覚悟決めるしかないの?掘られる覚悟なんて決めたことないし、そもそも何で、…………あれ、そういや聞いてないな、何でだ?

「なぁ爆豪」
「んだよ」
「何でお前ら、俺にこんなことすんの……?お前らモテるだろうし、本気出せば落ちない子いないだろ」
「…………………は?」

あの頭の回転の速い爆豪が、たっぷり5秒沈黙した。あまりに黙るから、なんか間違えたかと思った。え?間違えてないよな?
すると爆豪は眉間の皺を2割増にして、ぐっと俺の後頭部を掴んだ。すぐに重なる唇。だからそう、これ、こういう行為の理由を聞いてんだけど……!

ぴちゃ、くちゅ、というやらしい音が響いて、それだけでもまあまあ恥ずかしいのに、爆豪の舌が上顎をなぞったときには、鼻から抜けるような声が出たので死にたい。爆豪のキスは止まらなくて、鼻で息をしようともだんだん酸素が追いつかなくなって、ていうかキス上手すぎないか?なんか女慣れどころの話じゃなくない?ようやく唇が離れ、互いの唾液の糸がつう、と繋がって切れたのが見えて、だめだ恥ずい。

「……爆豪、今まで彼女って何人いたの?」
「はァ?モブ女なんぞ興味ねーわ」
「……才能マン……」

忘れてた才能マンなんだった。もう何も言うまい。

「何で、っつってたな」
「え、うん」
「それは───」

「……抜け駆けか爆豪、約束と違ぇぞ」
「チッ、分かってんだよ」

轟が上半身裸のまま出てきて、つい目を奪われた。引き締まった身体に風呂上がりでちょっと赤い頬、まだほとんど濡れたままの髪。こいつ本当にイケメンだな、と思いながらその顔を凝視してしまっていると、「先生、そんなに見られたら流石に照れる」と轟がベッドに乗り上げてきた。うわもしかして自ら墓穴掘ったっていうか、今から寧ろ掘られるってか?ハハ何も面白くない。

その後のやり取りで、爆豪は今日は非番で、家でシャワーを浴びてきたらしいことがわかった。で、明日は二人とも非番。爆豪お前連休?いくら自分の事務所とはいえ他のヒーローとのパトロールの兼ね合いもあるはずなのにそんなことできんの?才能マンだから?便利な言葉だな!!

ついでに、幸か不幸か俺も明日休みなのは、もちろんただの偶然なんだよな?……………な?


白昼夢で眠れない


なんだかんだ流されてしまう己の甘さも要因の一つ、そんなことは分かってるけど

2019.05.23