好きな奴が部屋にいるのは、なんか、不思議な感じだ。



「轟〜、この問題、どこが違ってんのかな」
「、わりぃ、どれだ?」
「これ、問3。途中式ここに書いたんだけど……」

少しぼーっとしてたらしい。俺のせいだろうけど、俺のせいだけじゃないと思う。隣に座るミョウジからいい匂いがするからだ。そもそもなんでだ。風呂上がりでもねぇのに。ミョウジの元々の匂いなのか?そんなことあるか?普通に俺や他の奴と同じ、普通に授業も演習もして、汗だってかいてるはずなのに。

とりあえず考えるのをやめて、指さされた問題を見ようとすると、肩が触れた。ミョウジの顔もすぐ近くにある。肌がすべすべだってクラスの女子がこいつに言ってたけど、確かにそんな感じがする。触りたい。触ったらどんな反応をするだろう。それに対して俺はどんな、

────何考えてんだ俺は。




「………解き方は合ってるから、計算ミスじゃねえか?たぶん、ここで違ってる」
「え、まじ?」

どこ、とミョウジが更に俺の方に寄ってくるので、ノートをそっちの陣地に動かした。すこし離れた熱にホッとしたような、名残惜しいような、複雑な感じだ。

ミョウジは今日は珍しく眼鏡をかけていて、それが何か……なんというか……似合ってて、新鮮だ。これもクラスの女子が言ってた気がする。普段かけてない人がメガネかけてるのって良いよねと。今なら分かる。メガネは良いものらしい。あと、正直ちょっとエロい。

…………こんなことを考えてること自体に罪悪感を感じる。もちろん言えないから、謝ることすらできないけど。





「轟、勉強教えてもらっていい?」の一言から始まって(ちなみにそのときのミョウジは少し首を傾げていて、あざといってこういうことかと思った)、俺の部屋で課題をやることになって、そしたら分からない問題があるたび、ミョウジはこうやって聞いてくる。その度に近付いては離れる距離がもどかしい。

課題が終わったら、自分の部屋に帰っちまうんだろうな。いや、それならまだ良いけど、仲良い上鳴とかの部屋に行くかもしれない。俺なんかといるより、そっちの方が楽しいだろうから。

けどそれは何か、嫌だ。俺の隣にずっといてくれなんて、友達にそんなことを思う俺はやっぱりおかしいんだろうか?言えるはずがないけど、他の誰より俺を優先してくれって、そんな独りよがりなことをもし伝えたら、ミョウジはどんな顔をするだろう。




「はーーー終わったーーーーーー」
「ああ。お疲れ」
「ありがと〜……予習もできたし助かった……」

ミョウジは伸びをして、すると部屋着からちらりと腹が見えたから、慌てて目を逸らした。そんなことはもちろん知らないミョウジは、ごろりとそのまま畳に寝転んだから、余計に裾から肌色が出ていて、今度はついじっと見てしまう。本人は全く気にしてない。俺だって、他の奴なら全く気にしない。ミョウジだから気になるだけだ。W友達Wを相手に持ってちゃいけない感情だから、一人で混乱してるだけ。

「畳の良い匂いする〜」
「……………ああ。コレに慣れると、フローリングで寝られねぇ」
「分かるなぁ………。あーーーやば、マジで寝そう………」

うとうとと目を閉じるミョウジに、好きな奴が部屋にいるって、もしかしてすげぇことなんじゃねえかって、ここで漸く思った俺はたぶん、色々遅いんだろう。ミョウジが俺の部屋の畳の上に仰向けに寝転がって、無防備にも目なんか閉じて、唇は薄く開いてて。服は薄いTシャツにスウェットで、鎖骨とか腕とか腹とか脚とか、隙だらけだ。

その唇にキスがしたいとか、鎖骨に噛みつきたいとか、服の裾から手を入れて、触って、そしたらミョウジはどんな顔で、どんな声で反応を示すのかとか。考えればキリがなくて、ああ俺ムラムラしてんのか、なんて改めて思う。

ミョウジはどんな顔もかわいいけど、もしキスと愛撫をしつこくしてやったら。生理的な涙に濡れる目元を赤くして、訳がわからないぐらいとろとろにさせられたら。どれほどかわいくて厭らしいか分からない。

もしそんなことになれば、舐めてないところが無いくらい身体中に舌を這わせて、気持ち良さに怯えるミョウジに、怖くないから大丈夫だ、なんて諭して、より一層優しく、容赦なく触れたい。



────まあコレは所詮妄想で、そんなことした瞬間に終わりだよなとか、だけどしたいな、とか。際限なく生まれる欲に、いっそ自分でも恐ろしくなってくる。



「とどろきはさぁ……」
「……なんだ?」

ごちゃごちゃと纏まらない思考に、眠そうなミョウジの声。呂律が少しはっきりしないその話し方がかわいい。だめだ、そう、ミョウジはかわいいんだ。だから今みたいな、その気になれば俺がなんとでも出来そうなその体勢をやめてくれないか。

「かっこいいよなぁ。つよいし、かしこいし、イケメンだし……」

好きな奴が部屋にいて、横になってて、半分寝かけてて、それだけでもやばいのに。自分を褒める言葉ばかりを、その唇が紡ぐ。そんなの、期待しない方がおかしい。友達としての評価であるそれを、ひとりの男として、恋愛対象として見てくれたら、どんなに。

「すげーと思ってる、けど……とどろきもなやむこと、あると思うから、」

何かあったら、聞くから、いつでもそうだん、しろよ。



その言葉を最後に、穏やかな寝息をたてて完全に眠ったミョウジは、俺が今どんな顔をしてるかなんて、露ほども知ることはない。据え膳食わぬは何とやらだ。これくらい許されるだろうと、気持ち良さそうに眠るその顔の隣に手を付いて屈む。

一定の呼吸を繰り返すその唇を塞いでやりたいって気持ちもあったけど、流石に思い留まって、代わりに、額にキスをした。

「……俺のもんに、なってくれ」


まずは恋人からお願いします


何かあったら聞いてくれるって言うなら。何もなくてもおまえの隣にいられて、何もなくてもおまえに触れることを許される関係に、俺と、なってくれねぇかな。

2019.06.02