轟くん×ヒーロー科3年生夢主







悩みがあるので聞いてほしい。それは、俺の後輩についてのことだ。

名前は伏せるが、とても有名な炎を纏ったヒーローの息子で、雄英高校1年生、つい最近どうやら仮免に受かったらしく、嬉々として報告してきたかわいい後輩である。

「ミョウジ、それ名前伏せる意味あるか?とど、」
「待ってとりあえずこのまま聞いてマジで真剣な話だから」
「………」

今は放課後。みんな今頃、寮に帰って宿題をしたり予習をしたり、個性の自主練をしたりしている頃だけど、俺は俺の親友を引き止めてこうして話をしている。ちなみにもう一人の親友のミリオは忙しいから捕まらなかった。
一年の時から同じクラスだったこの親友は、やや無表情でクールなところがあいつに似ている。……今のは嘘だ。あいつって誰のことだかさっぱりだ。

話を戻すが、その後輩は、とても俺に懐いてくれている。これはたぶん自意識過剰なんかじゃない。だって、廊下ですれ違う度に(表情はそこまで変わらないけど少し嬉しそうに)「ミョウジ先輩、ちわす」「ミョウジ先輩、今からお昼ですか。ご一緒しても良いですか」「先輩、寝癖ついてる。かわいい」とか言われるんだよ。

「……最後のおかしくね?」
「分かってんよそんなことは」

そう、とど……後輩Tは俺を女子の先輩と勘違いしてるんじゃないか?ってときがある。言葉のチョイスがちょっと変なのだ。国語が苦手なのかと思って聞いてみたら、勉強自体はクラス5位の点数だった。いやおまえ頭いいんかい。でも国語は苦手な方だから今度教えてくださいと言われた。ちなみに俺は国語得意だけど教える自信はない。

「けど最近の悩みはここじゃないわけ」
「本題に入ってなかったのかよ早く話せ阿呆」
「すいません」

前置きが長かった。俺の悩みは、とどろ……そんな後輩Tの、パーソナルスペースが狭すぎるっていう話だ。近いんだとりあえず。何するにもすげえ近いの。知ってる?イケメンてあんまり近くで見ると超緊張するんだよ。しかもすんごいちゃんと目を合わせるタイプの子だから、あのオッドアイでじっと俺のことを見てんの。

「……で、それが悩み?本人に言や良いじゃん」
「いや、近いこともそうなんだけど、なんか最近後輩Tの顔見てるとめちゃくちゃドキドキすんの。心臓いてえの。俺これ病気?俺しぬ?」
「……ハァ……」
「ため息とか……」

薄情すぎる、と思っていたら、カラカラと教室のドアが開いた。やべえ先生の見回りか、もうそんな時間か? そう思いながらドアの方を見れば、まさに後輩Tが立っていた。俺の心臓はやっぱり痛くなった。ああもう、どんなタイミング。

「ど、したの轟。あ、俺に用事?」
「……いえ、お取り込み中でしたか」
「いや全然。轟くん、こいつ悩みがあるんだって。俺もう帰らないといけないから、聞いてやってくれる?」
「おいおいおいオイ」

引き止める言葉もさほど出てこず、目の前から友人が去っていく。そして入れ替わるようにして、目の前には後輩T。

「ミョウジ先輩。……悩みって?」
「ぅえ、あー、えっと、なんでもな」
「ナマエさん」

机の上でゆるく握られていた俺の左手に、ひんやりと冷たい手が重なる。そこに心臓が移ったみたいに、ドクドクとうるさい。
ていうか俺いま、何て呼ばれた?

「ナマエさん、言って」

心臓いたい、いや、心臓とかよりもっと奥の方が痛い。
何も言わない俺に、急かしたいのか何なのか、グーの形に握られていた俺の手をそっと開かせて、その上から手を組まれた。する、と指の間を撫でられて、もう訳がわからない。

左右で違う色の瞳は、俺を射抜き続けていた。
浮遊して加速する

欲しいものは求めるべきだと知ったから、らしい




2019.05.01