*サイドキック轟くん×プロヒーロー夢主






「……またこの仕事受けたんですか」
「ん?」
「下着のブランドのCM」
「ああ、それね」

じとりと俺を咎めるような目で見てくるこいつは轟焦凍、なんとあのエンデヴァーさんの息子さんだ。サイドキック争奪戦が開幕乱闘まったなしの超有望株だけど、どうしてかウチを志望したらしい。
15位そこそこの俺の事務所をなぜ志望したかは分からないが、とりあえず二つ返事で話を受けた俺には、同期の独立したプロヒーロー達からブーイングがあった。俺に言われても。

「俺、この仕事は断ってほしいって言いましたよね」
「あーなんか言ってたなあ……。前も聞いたけど、なんで?」
「………」

焦凍は普段はとても聞き分けの良い子だ。雄英ヒーロー科を首席で卒業しただけあって、即戦力として仕事はできる。強いし、賢いし、真面目だ。さすがエンデヴァーさんの息子、教育の賜物だろう。まあそのせいで昔はかなり仲が悪かったと聞くけど、まあそれは今はいい。

基本的には何でも単刀直入に言い、簡潔に話すことの多い性格で、それでいて身内には優しく、素直だ。ちょっと天然の気もあると感じるほどに。
なのに時々、妙に頑固になることがある。別に、普段が良い子だから、それだけを見てどうこうってことはないけど、ただ、どうしたんだろうなとは思うわけで。

「んー、焦凍?」
「……はい」
「なんか分からないけど、そこのブランドは俺が前々からイメージキャラクターとして出演してたやつだし、まあ暗黙の了解もあって、今から降りるっていうのはまた違う話なんだ。分かる?」
「…………はい」

完全に納得はしてないにしろ、とりあえず頷いた焦凍を見て、そのさらさらの髪ごと頭を撫でてやった。動きが固まった気がしたけど、突然鳴ったケータイに気を取られたので、その辺りの真相は分からない。

▽▲▽▲▽

ケータイで電話をかけてきたのはジーニストさんで、チームアップの要請だった。ホテルで前乗りし、次の日に合流する。そのホテルはジーニストさんが抑えてくれているとのことだったが、ちょっとしたハプニングが起きた。

「申し訳ございません…!こちらの手違いでブッキングが起こっており、ダブルベッドのお部屋ならすぐに手配できるのですが……」
「ああ、別に良いですよ」

どうやらホテル側の不備でダブルブッキングが起こり、ツインの部屋が取れないということだった。一晩寝るだけだし別に問題ないだろう。もし焦凍が上司と寝ると疲れが取れないって感じだったら、俺はソファを使えばいいし。

と、そう思って、風呂上がりに焦凍に同じベッドで寝るか俺がソファで寝るかを選ばせようとしたら、強い力で引っ張られて、ベッドに押し倒された。戦闘時なら反応できるにしても、今みたいなタイミングはなかなか難しい。

「焦凍、どうしたの」
「……………です」
「焦凍?」
「だから嫌なんです、あのCM」
「は?」
「ナマエさんのこういう姿、誰にも見せたくないのに」

いつもはヒーロー名で呼ばれるのに、不意に名前で呼ばれて驚く。焦凍の顔はなんだか辛そうで、手のひらでそっと頬に触れると、その手にすり寄るようにして頬を寄せた。左側だったからか、温かい。

「ナマエさんのことを誰にも見せたくない」
「………」
「でもナマエさんはヒーローだから、そんなことできない」
「うん」
「だからせめて、パトロール以外では独り占めしたいのに、それもできなくて」
「……うん」
「おまけに、ボクサーパンツ一枚なんてエロい格好でCMなんかに出て、誘ってんのかって思う」
「うん……、ん?」
「事務所でシャワー浴びた後も今も、なんの警戒心もなくパンツ一枚で出てくるし。個性の性質上暑がりだって言っても、服は着ろよ」
「……スミマセン」

さっきまでのシリアスな雰囲気から一転、言っている意味が分からない言葉が並べられたので、反応の正解が難しくてとりあえず返事を続けていたら、すこし叱られたようだった。追いつかない。

敬語がなくなったときの焦凍は少し拗ねているときだと思う。これはまずい。色々ツッコミが間に合ってないけどとりあえず、服は着た方がいいらしい。焦凍、どいて、とお願いをしたと同時に、低くて掠れた声で名前を呼ばれた。

「好きです」
「……え……」
「好きになって、すいません」

寂しそうに、辛そうに、堪え切れないというように吐き出された言葉。うまくその声を掴めないまま、こちらを見るその顔が、脳裏に焦げ付いて影を作る。

こっちはまだ、前の前の前のセリフの解析もまだなのに。そんな縋るような目をされたら、どうしても心臓が痛くなってくるっての。
星を食べた少年

この夜を越える方法を一緒に探してあげようと思う



title by サンタナインの街角で
2019.05.01