クソ副作用のことは、365日ウザってえと思ってる。まさにクソだ。要らねぇ。

その中でも、一番クソだと思う瞬間があるとしたら、ミョウジのダチとしての親愛だの信頼だの感情が刺さる時だ。俺のことを何とも思っちゃいねえ、ただのダチに向ける感情は、何度も俺を殺す。

別に、ミョウジが悪くねぇことは分かってる。俺らは実際、普通に『友達』だからだ。だからその感情は間違ってねぇ。そんなもん最初から分かっちゃいるけど、そろそろ限界だった。

あいつが荒船と仲が良いのは知ってる。幼馴染だし、あいつも進学校だから、学校が同じでクラスも同じ奴となら、ボーダーに来たって当然、話題は多くなる。昨日の授業が、今度の学園祭が、明日提出の課題が。それは俺には到底分からないもの。あいつと出会ったときには既に一番近くに荒船がいて、それは別に普通のことだ。俺が、俺の心臓のあたりが、ごちゃごちゃしてんのが悪い。






「あのさ、カゲ。俺、何かした?」

俺のクソ副作用は、何やってても感情が向けられさえすれば感じる。相手が俺のことを考えている限り、多少遠くにいてもだ。ただ、距離が離れているほうが、なんとなく刺さり方が浅い気がする。

だからミョウジを避けた。会わなければそいつが俺のことを考えることはないし、たとえ考えたとしても、近くにいるよりマシだ。そいつから向けられる感情は決して不快なもんではない。俺の望む感情じゃないってだけだ。アホほど理不尽なことをしてる自覚はある。

「……もしかして、変な感情向けちゃってる?」

別に変じゃない。今刺さってるのは、友愛や親愛と、俺への心配、不安、少しの焦り。それらは気持ち悪かったりイラついたりするような感情じゃない。ただ、俺の望むモンはそこにはない。それが苦しい。

「……か、げ?」

こいつを壁に押し付けて、俺との間に閉じ込める。困惑と動揺の感情が強くなった。これは普段刺さるソレより好きかもしれない。同じ学年でつるんでる奴らの中じゃちょっと小さくて華奢で、けどいざ戦闘になるとそんな要素は微塵も感じさせない。もうすぐ一万ポイントに手が届くような、ボーダーん中でも上位の攻撃手になる。

こいつとの斬り合いは、普段のお人好しの顔と180度違うツラが見れるから好きだった。ただのランク戦が、唯一合法的に二人きりになれる機会だと気付いてからは、自分の発想の気持ち悪さに吐き気がしたが。



とにかく、いつから、なんて覚えてねえ。気付いたら好きだった。転がり落ちてから、目が離せなくなった。

突飛な行動の後、何も言わない俺に、ミョウジは少し慌てている。その白くて柔らかそうな頬に掌で触れると、さっと朱が射した。同時に肌に刺さったのは、今まで向けられたことがない感情。

「…………何、照れてんだよ」
「っ!か、カゲが、訳わかんないこと、するから……っ」

刺さるそれは色濃く強くなっていく。羞恥の感情は、こいつから向けられるならまぁ、むず痒さはあるものの悪くない。そう、この反応も感情も悪かないが、男に頬触られただけで顔赤くすんなら、クソ犬あたりにバレたら格好の餌食だ。絶対に触らせてたまるか。

「お前、他の奴にそういう顔すんのはやめろよ」

意味が分からなかったんだろう。顔は赤いまま、首を少し傾げて俺を見上げるその仕草のあざとさには、いっそ苛立ちすらこみ上げる。



それにしても、こいつの言う『訳わかんないこと』をするとこうなるなら、例えばその唇に噛み付いてやれば、どこまで俺を意識してくれるだろうか。どうなんだよ、なァ。

「好きだ」
「だいたい───……、………え、?」
「だからてめぇも、俺を好きになれや」

俺を好きになって、早く『好き』って感情を、俺に向けやがれ。

耳まで赤くなったナマエを、人通りは少ないとはいえ誰が通るとも分からない廊下に置き去りにするのは癪で、腕を掴んで自分の隊室に向かって歩きだす。刺さる感情はあんまり感じたことがないもので、どういうものか分からないが、男に好きと言われたことへの嫌悪感みたいなものは感じられなかったので、どうやら意識させることはできているらしい。

俺に引っ張られて半歩後ろを歩くその顔が見えないのが、ホッとするような残念なような、複雑な感情を覚えた。
唯一それだけあればいい

まずは視線の一つを寄越せと願う

2019.07.27