※Dom/Subユニバース
※設定色々捏造













 体が怠い。頭が重い。
 風邪ではないWそれWは原因もはっきりしているのだが、それでも対処のしようがない。

 DomとSubという第二の性がもたらす欲求は、食欲・睡眠欲・性欲などと並んで逃れられないものだ。つまりは、Subである俺のこの身体の不調も切り離せないもの。

 いつもは同期で友人の悟とplayをすることで解消するけれど、最近お互いに忙しくてその時間が取れなかった。そして悟は今、出張でいない。あと2日くらいで帰ってくるはずなので、この倦怠感とももう少し付き合わなければいけない。やっぱり伊地知にシフトを変わってもらって悟の出張に同行するべきだった。とはいえ周囲には時々Domもいるが薬を飲めば問題ないけど。

 問題ない。そう思っていたのに。

「ミョウジさん、ちゃんと俺のこと見てください」
「ふしぐろ、まって、」
「見れましたね。good boy。気持ちいいですか?」
「ッん、……気持ち、いい」
「良かった。俺もです」

 そう言いながら見せた蕩けるような笑みは、俺が知っている伏黒のイメージとはかけ離れたものだ。目元を甘やかに細めて微笑む。もともと顔の作りとして整ってはいるが普段は少し冷たく見える印象を与える。だけど今はその雰囲気が霧散していて、これだときっと女性が放っておかないだろうなと思った。

 いや、そんな悠長なことを考えている場合じゃない。俺に正式なパートナーは居ないとはいえ、ここ数年は悟以外にplayをしてもらうことはほぼなかったのに、そして仮にplayをしてもここまで幸福感を感じることはなかったのに。どうしていきなりこうなった?
 生徒であるはずの伏黒に命じられて従って褒められて、その一連の流れが俺の思考を快感で上塗りしていく中で経緯を思い出す。



 たしか廊下を歩いていたら呼び止められて、すると相当青白い顔をしていたのか体調を心配されて、そこまでは良かった。

 俺が問題ないと言っても伏黒はなかなか引き下がらず、最終的に「倒れたらどうするんですか、休んでください」と強めの言葉をかけられた時。

 glareと言うほどでは無い筈なのにW命令Wに身体が震えた。悟以外でそんな風になったのは初めてだ。
 そもそもplayを行う前には諸々の確認を行ってから、セーフワードなどを決めてスタートするのが基本だ。ましてや自分は希少なAランクのSubなのだから、同じAか悟のようなSのDomでないとこうはならない。つまり伏黒は高ランクのDomということになるが、だとしても。

「Look」
「っ、あ……」
「他のこと考えないでください。俺だけ見て、ミョウジさん」
「ごめん、でもおれ、」
「ちゃんと出来て偉いですね。good boy」

 おれの反抗も抵抗も遮って与えられるのはどろどろと甘い言葉。まだkneel(跪け)を含めた簡単なコマンドしかこなしていないのになし崩しに褒められて頭がふわふわする。身体を重くしていた倦怠感が抜けて、W気持ちいいWとW嬉しいWに脳が溶けるみたいな感覚になる。

 だめなのに、そう思うのに。もっと褒めてほしくて、構って欲しくて、支配されたくて。

 ゆるゆると頬をなぞられ、額にキスをされて。その幸福感に身を委ねそうになったとき、聞き馴染みのある声が鼓膜を揺らした。


「ナマエ、stop」


 身体がびくついたのを自分でも感じるほどに驚いて、そして声がした方を反射的に振り向いた。呼べと命じられてもいないのに、つい「さとる」と声が漏れた。

「おいで。あぁ、セーフワードはいつものね」
「……悟、あの、これは」
「僕の命令、聞こえなかった?」
「……!」

 頭の中に響いたはずの命令をどうにか引っ張り出し、悟の元へ歩いて目の前に立つ。四つん這いで移動しなかったのは、悟はあまりその仕草を好まないからだ。
 悟が黒い布の下でどんな表情をしているのか分からないままに見上げていると、悟が自分の唇にちょん、と触れた。

「Kiss。できるよね」
「っ、ん……」

 後ろに伏黒がいることは分かっていて、敢えてこんな命令をしている。俺はそれを理解しながらも抗えなくて、命じられた言葉を受け入れて自分から唇をくっつけた。

 何度か唇をくっつけていると「Good boy」という言葉とともに抱き寄せられた。その途端に身体の力が抜けて座り込みそうになったのを、悟の腕が支えてくれた。

「スペース入っちゃった?」
「あ……」
「久しぶりだもんね。ごめんね」

 足元も何もかもふわふわした感覚。Sub spaceに入ったのだということは分かるけど、他のことは何も考えられない。他の人に命じられてもそうそうないことだ。俺がこうなるのは──今では、悟だけ。

「……で、恵はいつまで見てるの? ここからのplayはさすがに見せらんないけど」
「……なんで、五条さんとミョウジさんは番じゃないんですか?」

 伏黒の声がする。頭が回らなくて時間がかかってしまう。WなんでつがいじゃないんですかW?  
 ……ああ、番か。なんでだろ。
 悟のこと、ちゃんと好きなのにな。だけどこれが本心なのか、強いDomを求める本能かどうかが分からなくて言葉にはできない。
 
「カラー(首輪)が付いてないからって番じゃないとは限らないでしょ?」
「でも違うんですよね」
「……さあ、どうかな。そろそろ授業始まるよ。あと、今回は何も無かったからいいけど、playの時はセーフワードくらい決めなきゃ駄目だよ」
「……すみませんでした。俺が無理やり誘ったんで、ミョウジさんのこと責めないでください」
「はいはい」

 二人の会話は聞き取れるけれど、内容がちゃんと飲み込めない。伏黒がいなくなったらしい空間で、いつの間に移動したのか、ソファに座って悟が俺を抱きしめた。

「生徒誑しこんじゃ駄目でしょ」
「……たらしこんで、ない」
「ハァ。……今日、もうちょっと頑張れる?」

 悟はいやに静かな声でそう言った。頷くと、「コレ外して」と俺の手を目元へ誘導するのでアイマスクを外す。透き通った青なのにその奥に熱が揺らめくのは、他のDomが俺に触れたからだろうか。

「Strip。上だけね」

 『脱げ』というその命令を受けるだけで、背骨がぞくぞくと快感で震える。悟に直接的なコマンドを使われると、場所がどこかなんて関係なく身体が疼いて仕方ない。
 上着のファスナーを下げて腕を抜いて、その下のTシャツも脱いで肌を晒す。その間も悟はじっとおれを見ていて落ち着かない。そのまま抱き寄せられて喉元を舐められるのはいつものことだ。悟の涼しげな見た目に反して熱い舌がぬるりと首を這って、時々触れるだけのキスが肌を辿るようにして下りていく。

 軽く肩を押されてソファに倒れ込み、脱いだ事で全てが悟の目に晒された俺の上体に悟の手が触れる。思わず身を捩りそうになると「Freeze」という一言で動けなくなり、悟は命令に従った俺の頭を軽く撫でた。
 胸を舐められ尖りを食まれるたび、熱が高められて肌が粟立つ。腰が揺れて声が出そうになるのを堪えるべく奥歯を噛み締めた。

「Say。もし気持ちいいなら、そう言って」
「……っき、もちぃ」
「ん、……良い子だね」
「ふ、ぅ……っ」

 スペースに入っているからか、どこを触られても何を言われてもびくびくと身体が反応してしまう。褒めるような言葉なんかは特に麻薬のようで、頭がぼんやりして思考回路を奪っていく。

「……寝て良いよ」
「……ぁ、でも、」
「僕もちょっとここで休憩するからさ。おやすみ、ナマエ」

 悟の優しい声が耳を擽る。今はもういない俺の番を──あの黒髪を──思い出して、その手に擦り寄った。悟は俺を大切にしてくれているし、俺は悟と番になりたいと思っているのに。悟は俺を置いて逝くことを恐れているのかそれとも逆か。それをずっと聞けないままだ。

「おやすみ、さとる」

 だって好きだなんて言ったらきっと、困った顔で笑うだろうから。


水中花葬



こちら2023年1月に更新しているのですが、最初に書いた2本程度を除いて後書きをずっと忘れていました……すみません……。

このお話、五条伏黒の△のはずが例の特級術師の要素を入れてしまって□になりかねない感じになってしまい申し訳ないです。あの塩顔に片想いする男主を作り出してしまう病にかかってしまっているようです……。

 ドムサブはオメガバより好きかもなバースでいつか書いてみたかったのでこの機会に書かせていただきましたが、色々初めてで表現やバースの良さを掴めていないので、だったのでまたリベンジしたいです。


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