※捏造しかない完全平和軸。20歳ぐらいのイメージ。










 場地とマイキーから「毎日オマエの飯が食いたい」と割と真剣な顔をして言われ、「ルームシェア? 別にいいけど」と返すとため息を吐かれて「もうそれでいいわ」と言われ一緒に住むようになったのは半年ほど前のことだ。人との会話に残念そうなため息を挟むな。

 そして今日。「ナマエ〜カノジョに振られたからぎゅってして〜」「……おい、んじゃオレもついでに慰めろ」とマイキーと場地がくっついてきたので、こいつらに彼女がいたことに少し驚きながらも要望通りギュッとしてついでに頭を撫でてやったりした。場地の言い分は適当すぎて意味が分からなかったけど細かいことは気にしない性格なのでそのあたりはスルーだ。
 おとなしくなったかと思えば、オレにくっつきながら睨み合っていた。喧嘩するなら巻き込まないでほしい。お前らと違ってオレは人なんか殴ったことも殴られたこともない一般人なので。



 ドラケンのバイク屋でマスコットを兼ねながら働くマイキー、千冬や一虎と小さなペットショップを一丁前に営む場地。そして大学に通っている俺という奇妙なラインナップでお送りしているこの家は、そこそこ真面目な奴しかいない大学のぬるま湯で過ごしたのちに帰ってくるときっととんでもなく疲れる空間に感じるんだろうと、一緒に住み始めた当初は思っていた。

 だってこいつらは根っからの不良だ。喧嘩なんかしたくないタイプの俺は東卍には入らず本当にただの一般人だったから、バチバチにやんちゃしてたこいつらとは何もかもが違う。

 その筈なのに、いつの間にか大学で愛想笑いに疲れた俺をこの二人が癒してくれると感じるようになった。表裏のない性格の二人といる居心地の良いこの空間を出て大学に行くオレ。勉強以外の楽しみを大学でみつけたかったのに、一番楽しいのが家なんてなぁ。



 ──そんなことを考えながらイヤイヤ飲み会に参加したのが駄目だったのか。押しに押されると断り切れない自分の性格を呪う。勧められるままに飲みすぎて、まともに力の入らない身体を男二人に支えられるようにして引きずられ歩く。まあとにかく家にさえ着けばなんとでもなるかと思考を放棄した。

 少なくとも家を教えた覚えは無い気がするが方面だけ知られていたようなので、割り切って家の場所を伝えた。別にこいつらは普通に友達だと思っているが許容範囲を超える量の酒を飲ませてきたことはなんとも言えない。アルハラだぞこのやろう。

 オレと男二人が家の前まで到着して、バッグから鍵をまさぐるのも面倒に思えてインターホンを鳴らした。このアパートは奥行きはあるが見た目は普通サイズなので、一人暮らしだと思っていたんだろう二人はポカンとしたが、すぐにガチャリとドアが開いたので説明も放棄し、オレはその出迎えた人物にもたれ掛かった。

「……おかえり、ナマエ」

 オレを抱きとめたのはマイキーだった。場地はいないのかな? 立っているのも億劫でとりあえず「ただいま」と言って抱きつくようにして体重を預けた。

「……お前ら、ナマエの何? ダチ?」
「! っあ、えっと……」
「送ってくれたのは礼言うけど、ダチならこんなんなるまで飲ませねーでくんね?」

 マイキーが少し声のトーンを落とした。気温が少し下がったような心地がするのは多分気のせいじゃないだろう。男2人が戸惑っているような雰囲気も察知したけど、飲まされた恨みがちょこっとあったのでフォローはしてやらない。
 とはいえ流石に可哀想だから、「マイキー、おれもうねむい」と言って少し空気を変えてやった。そのままその空気は読んでくれたらしい。

「……ま、いいや。送ってくれてアリガトな?」

 そんな最後の一言は、ガチの元ヤンの声だった。





「オレら以外に何触られてんの?」

 ドアが閉まったと思ったらそこそこ低い声でそう言われて、なんで俺が怒られてんだと思いながらも「ごめん」と呟いたら、呆れたようなため息をつかれた。いつかの会話のデジャヴ、いやそれよりもっと失礼な感じがする。今回はまあ飲まされすぎたオレも確かに悪いけど。
 何か言われてる気もするが、もうぶっちゃけ寝たい。上瞼と下瞼がくっつきたがってるからいよいよもって無理そうだ。

「あ? ナマエ帰ってきたのか」
「めちゃくちゃ酔っ払ってんだよ。まともに立てなくて男が家まで連れてきた」
「ハァ? ンだそれ、オマエぶん殴んなかったか?」
「殴ってねーし。オトナの対応したし」

 風呂上がりらしい場地とマイキーが言い合うのをBGMに、凭れて立つのもいよいよ難しくて座り込む。マイキーはオレに合わせてしゃがんでくれたらしい。ぎゅうぎゅうと抱き締められる心地が変わらないから。

「おいナマエ、こんなとこで寝んな」
「ん……」
「部屋行こ、ナマエ」
「んー……」

 明日の晩ごはんはちょっと張り切ってオムライス作ってやるし旗も立ててやるから、なんとかしてくれないかな。部屋まで運んでベッドに放り投げてくれるだけでいいから。
 水を飲んだ方がいいとかシャワー浴びた方がいいとか、色々思うけどそのどれも、今このまま寝ることの心地よさを覆せない。きっとなんとかしてくれるだろうという他力本願な気持ちは全部、ただオレがだらしないんじゃなくて、こいつらがなんだかんだ優しいせいだ。

「おい。……こんなとこで寝たら、オレらにマジで襲われンぞ」

 だからそんな縁起でもないことを場地に言われても、ふっと頬が緩むだけだった。

「おまえらやさしいから、そんなことしないだろ」

 どうにかそんなような言葉を返して、いよいよ瞼を下ろした。部屋にすら辿り着けないなんて、とんだ駄目人間だ。目覚ましをちゃんとかけたかどうかも自信がないけど、明日は3限だけだからきっと大丈夫だろう。おやすみという言葉が聞こえて、唇に2回ほど柔らかく何かが触れた気がした。



 悠長に眠ったオレは知らない。
 どちらがオレを抱えて運ぶかで揉めたこと、どちらか一人が部屋まで運んだとしてそのまま何もしないなんて信用できないからと結局二人ともが部屋に来たこと、マイキーが眠くなってきたことを理由にオレのベッドで寝始めたので、張り合って場地もオレを挟んで反対側に寝たこと,

 朝起きてやたら身動きが取れないと思ったら狭いベッドの上でぎゅうぎゅうに抱きつかれていた。理由を聞いたらその方が眠れそうだったからと言われたのでお礼とお詫びを兼ねて二人に抱き枕を買ってやったら、二人ともにため息をつかれた。なんなんだよ!


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