※未来if











 俺には、現在進行形で悩んでいることがある。深刻なものというよりどちらかと言うと贅沢な悩みだと思うが、いよいよ我慢できなくなってきたので思い切って恋人に直接聞いてみることにした。

「……あの、なまえサン」
「ん?」
「あー、その、……そろそろ下、穿きませんか……」

 そう、その悩みというのが、風呂上がりの恋人がえっちすぎるということだ。俺と共用で着れるように俺のサイズで買ってあるスウェットはなまえには少し大きくて、袖は指先がちらりと見えるだけというあざとさ。何より裾の長さが絶妙で、何故かスウェットの下を穿かずにリビングに入ってきたなまえがその状態で立っていると下着を穿いていないように見えるのだ。まあちゃんと黒のボクサーパンツを穿いているのはソファに座ったらすぐに分かったけど、それでも惜しげもなく晒された白い太ももが眩しいことには変わりない。

 休みの前にはそういう雰囲気になるけど、今日は平日。つまりなまえは明日も仕事があるから無理をさせてはいけない。明日は4月1日で、仕事終わりに誕生日ディナーを食べに行こうという約束もある。

 だけどここ最近ちょっとお互いに忙しくてなまえに触れていなかったし、いよいよ我慢にも限界が来ている。正直今すぐ抱きたい。なんならその太ももで挟んでもらえるなら素股だけでもいい……なんていうあらぬ事を想像しては、皇帝で煽り屋なチームメイトのムカつく顔を思い出してどうにか邪念を振り払っている。

 メッセージのやり取りでもいいから誰かに聞いて欲しいと思うもののこれをチームメンバーなんかに相談しようものなら惚気だとあしらわれるのがオチだし、元ブルーロックメンバーでは玲王や千切あたりが特に女にモテまくってきただろうからアドバイスをくれそうだが、あいつらはスマートな見た目とは裏腹に男らしい性格なので結局「据え膳なら食うしかないだろ」とか言われて終わりそうだ。

 俺の言葉を受けたなまえはというと、きょとんとした表情で目を俺を見上げたあと、「だって暑いもん」とあっけらかんと言った。もん、じゃねーよ。そんなあざといこと言って許される20半ばの男が居るか? 居たわ此処に。

「こら、セクハラ」
「……っご、めん、無意識だった」
「ははっ、疲れてんね」

 気付いたらその太ももに触れていて、女の人とはもちろん違うけど自分のよりは柔らかい。好きな人の脚ってなんでこんなに魅力的なんだろ。あー触りたい、顔うずめたい、噛みたい、俺ので汚したい……。

 ソファで隣り合った距離のままにそんなことをぐるぐると考えていると、「世一」と名前を呼ばれて顔を上げる。するとピントが合わないほどの距離に恋人の顔があって、キスをされたと気付いた時にはもう押し倒していたと思う。なまえの頭の後ろを支えてぶつからないようにした自分の僅かな理性を褒め称えたい。
 舌を捻じ込んで呼吸を奪って、唇の隙間から漏れる吐息に煽られてもっとキスを深くしてしまう。離れないと襲ってしまうと頭の片隅では思うのに欲望が止まらなくて、ようやく解放できたのはなまえが俺の服をぎゅっと掴んで暫く経ってからだった。

 はぁ、と甘く悩ましげな呼吸を繰り返すなまえを見下ろすと情事を思い出すような蕩けた表情と目が合って、慌てて目を逸らすと少し捲れ上がったスウェットの裾野から覗く薄いお腹、そして黒のボクサーとのコントラストが眩しい太もも。もうこれ俺が悪いんじゃないじゃないか? と思ってなまえの片足を持ち上げて太ももにかぷりと軽く噛み付くと、付け根の際どい箇所だったからかなまえがぴくっと反応を示した。それがまた可愛くて舐めたり吸いついたりしていると、「世一って」というなまえの声がぽつりと聞こえて、甘噛みのまま視線を上げた。

「太ももフェチなんだよな」
「……え、なん、知って、え?」
「雑誌見た」
「……あー……」

 自分のフェチズムについてなまえに言ったことはなかった。別に隠してた訳じゃない。ないけど、なんか恥ずかしいというか、あんまりオープンにして意識されすぎるとなまえの太ももが堪能できなくなったら困るし、ぐらいの感覚だった。そういえば前に雑誌で一問一答みたいな企画があった気がする。その中にフェチの項目があったかもしれない。というか、なまえが断言しているということは間違いなくあったんだろう。今まで太ももに露骨に痕をつけたりとかそういうのは我慢してきたのに。

「女の子のじゃなくていーの」
「……、え?」
「……俺のより女の子の太ももの方が、柔らかくてきもちいだろ」

 言いにくいことを少し遠回しに言うなまえに対して恋愛経験があまりなくて察しの良くない俺は、いつもなら少しその本心に辿り着くまでに時間がかかることが多いけど。今日ばかりはなんとなく分かってしまって、心臓がギュッとなった。俺の恋人が可愛すぎて辛い、なんてラノベも驚きのフレーズが浮かぶほどには煽られた。

「女とか男とか関係ない。なまえが好きだから、なまえの太ももが一番だし」
「……胸張って言うことじゃねーよ変態」

 セクハラだなんだと言っていた時は随分余裕そうだったのに、今は耳まで赤くして俺から目を逸らす。俺の恋人はこういうところがたまらなくかわいい。

「……なあ、したい」
「………」
「一回だけ。駄目?」
「……、ん」

 ベッドに連れて行けと言わんばかりに甘えるように抱きつく仕草はあざといのに、どうやら計算じゃないらしいからずるいと思う。まあもし計算だったとしても、騙されれば抱かせてくれるならいくらでもチョロい男になるけど。

 なまえを抱き上げて暗いままの寝室へと運んで、できる限り優しくベッドに下ろした。ベッドサイドのライトを点けながらキスをする。本当はもっと明るいところで恋人の何もかもを見たいところだけど、前に恥ずかしがるなまえを明るいまま無理やり抱いたら暫くお触り禁止令が出たので、大人しく控えめな明るさの元で我慢する。

「っん、……ふ、……」
「なまえ……」

 キスをしながら魅惑の太ももをするすると撫でると、びくんと大袈裟に身体が跳ねた。薄い唇を食むようにして何度も口づけながらスウェットの裾から手を入れたところで、「世一」と少し急いたようか声で名前を呼ばれて、珍しい声色のそれに唇を離して手も止める。もしかしてここでお預けだろうか。やっぱりやめる、なんて言われた場合はどうやってお願いをしようかと考えを巡らせていると、首になまえの腕が回った。

「……明日、有給、取ってる」
「えっ……?」

 明日。有給。え、有給? 休みってこと? 明日は俺もオフだから嬉しいけど、いや絶対もうちょっと前から分かってたはずだし先に言ってくれても良くない? 二人ともオフならデートとかあるじゃん。平日にしか行けない人気のランチとか、なまえそういうの好きなくせに。こんなタイミングでそんなこと言うなんて、まるで、俺とエッチするために休みを取ったみたいな。

「……だから今日、好きなだけしていい、から」

 諸々考えていたことが全部吹っ飛んで真っ白に塗りつぶされた。理性がぷつんと切れる、というのは実際にある表現なんだと思った。気が済むまでキスをして、首や鎖骨や胸に好きなだけ痕をつけて、いつもは「もういいから挿れて」と言われたらそれに従っていたけれど、全身くまなく唇や舌で辿ってその肌を味わう。太ももには噛み跡もつけてそれがあまりにエロくて更に理性が飛んで、しかも既に後ろを準備していたらしいなまえにまた煽られて衝動のままに抱いた。



 何度目かの絶頂を経て行為がひと段落したタイミングでなまえに水を渡してやると、「いま何時……?」と掠れた声で呟いた。時計を見るとちょうど4月1日になったところだったのでそれを伝えると、なまえは俺の頬に軽くちゅ、とキスをした。

「……世一、誕生日おめでとう」

 枯れた喉のせいで吐息混じりの小さな声だったけれど、俺の耳にはしっかりと届いた。ふにゃりとはにかみながら自分を祝ってくれた恋人のかわいさと健気さに、思わず次のゴムへと手が伸びたのは流石に仕方ないと思う。






 空が白むまで散々抱いて、寝落ちたなまえを綺麗にして俺も眠って朝を迎えた。なまえに無茶したことを謝ってがらがらの声を労わりながらあれは誘っていたのかと問いかけると、「雑誌見た女の子が世一はどんな太ももが好きなんだろって言ってるのネットで見たから、俺のでムラムラしたらいいのにとは思った」と零すものだから、出かける約束をする隙もなくこうしてオフの朝を迎えられたことに心から感謝した。

賞味期限は本日15時


 19時半に予約したディナーに支障が出ないようにすると誓うので、おやつの時間あたりにもう1回触れることを、どうか許してはくれないだろうか。

 



2023.04.01
潔世一 happy birthday!