目が覚めた。時計を確認するとまだ幹部との会議までは時間があったので、腕の中にある、いつもより幼く見える寝顔を眺める。

穏やかに眠っているのは半年ほど前にファミリーの一員になった少年で、数時間前まで俺の下で啼いていた男の子である。


『抱けねェなら最初から呼ぶなっ、変な期待させんじゃねえ……ッ』

改めて思い出しても、すごい殺し文句だと思う。一周回って心配になるけど、まあその気にさせられたのも事実で。

初めての夜伽だったことと、お金のために身体を売った経験があるらしかったことから、優しく優しく、丁寧すぎるくらいに前戯をして、と思っていたら、存外そちらの才能があったらしく、最初からドライでイけてしまうという素質の持ち主だった。いや、前立腺を攻めたのは確かに俺だけど、射精は必要だろうと思ってたのに。……いや、だって、なかなか居ないよ……?だいたいみんな、時間をかけてゆっくり気持ちよくなっていくのに。

まあ過去の男にそう開発された可能性もゼロじゃないけど、少なくとも勝己の感覚的には後ろで感じるのは初めてだったようだったから、あの快感が変なトラウマにならず、気持ちいいとだけ覚えてくれたら嬉しいんだけど。

「……んっ……」

勝己はごそごそと動いて、唸って、それから薄っすらと瞼を持ち上げた。おはよう、と声をかけると、「はよ」という返事、いや、そう言おうとしたけどガサガサの喉でうまく声にならなかった声が返ってきて、ちょっと居たたまれなくなった。まあまあひっきりなしに喘いでたもんなぁ……。
可愛かったけど申し訳ない気持ちになって、ふわふわの髪を撫でてやると、勝己はもう一度唸った。

「水飲む?それか、シャワー浴びる?」
「ん゛、……ナマエ……?」

勝己は俺の名前をぽつりと呟き、そしてぱちりと何度か瞬きをした。と思ったら、がばりと起き上がって俺から距離を取ろうとした。

ベッドから落ちるんじゃないかってくらい勢いよく後ろへ下がるものだから、咄嗟に手を掴んで身体ごと引き寄せた。顔を見れば真っ赤で、ああなんだ、照れただけか。
ぽんぽんと一定のリズムで背を叩いてやれば、少し落ち着いたらしい。顔はまだまだ赤いけど。

「……最後、俺、どう、なっ、た」
「え?」
「ナマエ、出してなかったのに、俺だけ、なんか、変な感じになって、そっから、覚えてねェし、おれ、」
「ストップストップ、勝己、ちょっと落ち着け」

俺から顔を背けて言う勝己の言い分を聞けば、どうやら、自分だけ一方的に気持ちよくさせられて、俺に何もできなかったことを悔いているようだった。

「気にしなくていいよ、俺もあの後ちゃんと出したから」
「……俺んナカでか」
「いや、勝己寝てたし、普通に自分で」
「なんでだよ叩き起こして挿れろや……!!」
「ええー…」

時々ガッとメーターが振り切れるよなぁ、きっとこうして天哉とかにも噛み付いちゃってるんだろうなあって思いながら、さてどうやって諌めようかと次の言葉を考えていると、勝己は自分の臍のあたりをするすると撫でた。俯いているから表情は見えないけど、綺麗に割れた腹筋は、抱いている時の可愛さからは少し遠く、ただただ厭らしい。
止めねェっつったくせに。ぽつりと、勝己が話し始める。

「俺のココを、てめェのでいっぱいにするっつったクセに」
「……………」
「……なんか言えや」
「いや……、やらしーなぁ、と……」
「てめェが言ったんだよ!!」

どこで覚えてくるんだろうかとちょっと頭が痛くなってきたころ、ベッドサイドの内線が鳴った。いつも通り、起きてるかの確認だ。寝坊が怖い俺は、いつも目覚ましとは別で、モーニングコールをお願いしている。
電話をとって『おはよう、起きてるよ』と言うと、出久が会議の時間を告げる。了解と伝えて電話を切ると、勝己の不機嫌さが増していた。なんで?

「……お前、一番抱いてんのは、誰だよ」
「……え?」
「抱いてみて良かったら、そいつをまた呼んで抱くんだろ」

つまみ食いみたいな言い方すんなよ、夜伽は基本は順番なんだよ……と思ったけど、それを言うとまた誰が良かっただのの話になりそうだからやめておく。
それにしても、気付いてるのかいないのか。その質問はまるで、初夜の具合を気にして、また俺に抱かれたいと、もう一度抱いてもらうにはどうしたら良いかと、考えてないと出てこない。

勝己、と呼べば、ぴくりと肩が跳ねる。抱きしめれば、おずおずと背中が手に回る。かわいい。特別にはできないし、みんなかわいいと思ってるけど、昨日のあの時間はかけがえのないものだった。それは間違いないから。

「すごく可愛かったし、興奮した。……W次Wは、最後まで頑張ろうな?」

耳に軽くキスをして、立ち上がる。シャワー浴びてくるねと伝えたら返事はなかったけど、まあそんなこともある。勝己が目覚める前に軽く浴びたけど、ちょっと当てられて下半身が重くなったのもあったので、それも処理してしまわなければ。

▽▲▽▲▽

部屋についてるシャワールームから、水の流れる音が聞こえる。さっき内線でかかってきたのは今日の会議の予定らしく、時間はもうない。クソが。下着を押し上げるソレは間違いなく朝勃ちではなく、あいつが耳元で喋ったせいだ。可愛かった。興奮した。次は、最後まで───

「勝己?シャワー空い、」
「わァっとるわクソ死ね!!」

ああもう死ぬ。頭溶けて死ぬ。ナマエはいきなりキレた俺にぽかんとしてるが、そんなもん知ったこっちゃねぇ。
昨夜の最後の方に感じた怖いくらいの快感から、徐々に記憶が蘇ってくる。終始冷静で、余裕で、丁寧だったナマエの、指の感触、肌の匂い、声、言葉、色んなものを思い出してしまって、身体が熱くなる。

ちゃんと抱かれたいと本気で思ったなんて、認めたくない。が、認めざるを得ない。
だって、他のやつのことも抱いてることだって最初から知ってて、この行為はただのこのファミリーのルールで、あいつはボスで俺は下っ端で、なのに、それでも俺に夢中になっちまえば良いのにと思ったのだから。

「っクソが……ッ」

欲しい。欲しい、欲しい。でも金や食い物みたいに盗めないし、買えもしない。遠い。立場も距離も。でも欲しい、渡したくない。

「絶対ェ、堕とす……ッ」

俺はもう堕ちてんだから、てめェも此処まで来てくれなきゃ、不公平じゃねえか。

結局、あいつに抱かれた時のこと思い出して抜いて、シャワールームから出たらあいつは居なくて、会議に出る旨と、訓練に遅刻しないようにという内容の置き手紙があった。ボスなんだから、下っ端のことなんざもっと適当に扱えばいいのに、こういう変なところで律儀なとこが厄介なんだてめェは。

何気なくベッドに寝転ぶ。行為の後なんか残ってない、整えられたシーツ。すん、と息を吸い込むとあいつの匂いがして、記憶が蘇って、ああもう、キリがない。

俺の身体は、シャワーを浴びなくても、ある程度綺麗にされていた。あいつは俺が眠りこけたあと、どんな気持ちだったんだろうか。
きっとあいつのことだから、おやすみとか何とか言って、俺の身体を綺麗にして、ベッドを整えて、俺を気遣ったんだろう。そのとき、呑気に眠る俺を見て、ちょっとだけでも触れたくなっただろうか。手を出したくなっただろうか。寝てる俺を無理やり抱きたいと、1ミリくらいは思ってやがれ。

後ろ髪を引かれながら、あいつの部屋を後にする。もう忘れる。次にあいつに呼ばれるまで、昨日のことは全部。
そんで訓練に集中して、強くなって、そしたら護衛だの何だのでもっと側に居られる。




そう決意して部屋に戻り、いつも通り訓練を終えたが、先生に「昨日呼ばれたらしいな。ボスの手管はどうだったよ」と珍しくニヤついた顔で聞かれ、思わず「死ね!!!」と叫んだ。