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雄英高校のヒーロー科の生徒といえば、かなり有名だと思う。体育祭が全国的に中継され、注目を集める。

そんなヒーロー科の中でも、いま俺の目の前にいる爆豪勝己は、かなりの知名度を持っている子だ。何せ、記憶力のなさに定評のある俺が、体育祭のその映像をちらっと見ただけで、顔も名前もきちんと覚えていた。一位になったことももちろんそうだけど、そのくらい印象に残る奴だった。

ちなみに他には、二位の奴の名前と、顔は……朧げにしか覚えてない。確か名前を轟くんと言って、あのエンデヴァーの息子らしい。なんかイケメンだったような気がする。すごい個性で見た目も王子様っぽくて将来有望だと、ヒーローオタクな姉が言ってた。ヒーローはビジュアルも大事らしい。大変な職業だ。それを高校生から本気で志す雄英高校の生徒に対しては、俺は本気で尊敬する。優勝した奴になら、尚更だ。






話を戻すが、俺は先日、その雄英体育祭優勝者である勝己に告白され、驚きと混乱と動揺の末に何故か勢いで頷いてしまったので、おそらく、付き合っている。

おそらく、というのは、ヒーローを目指してるわけでもない一般ピーポーな男子大学生の俺を選んだのが未だに信じられないのと、まあとにかく時間が合わない。もともと会えるのは互いの登校のときだけど、俺は曜日によって通学の時間が違うから、週に2回程度。しかも電車で他愛もない話をするだけ。

そもそも、最初は罰ゲームだと思っていた。だってそうだろう。通学の電車でよく見かけるな、程度の接触しか無かったのに、俺みたいなのを呼び止めて、好きだと、もし彼女いないなら付き合ってくれと、たしかに言った。その時点で俺は夢かそういう幻を見せる個性にかかったかのどちらかだと思ったけど、勝己の顔は少し赤かったので、今思えば、俺は絆されたんだろう。

そして連絡先を交換して、通学のときに会うようになって、話しているうちに、俺は考えが変わるのを感じていた。自分は絶対的にノーマルだと思ってたのに、勝己のことをかわいいと思ってしまっていることに気付いた。マジで大丈夫なの俺。



まあ言い訳のひとつでも並べるとすれば、ギャップにやられたので仕方ないと思う。だって体育祭ではあんなにも格好良く、雄々しく、そして一番になるほど強くて、ついでに言うと言動は荒々しかった(後から、根は真面目で強さに貪欲な奴だと知ったけど)。

なのに健気というか、連絡はマメだし、口数は多くないけど電車で話すときはきちんと目を見てくれるし、家まで送ると言ったらちょっと嬉しそうにするし。そのギャップにやられた。うわ、俺めちゃくちゃチョロい……。ていうかコレ犯罪になんない?

境遇の差と年齢差を考え始めると、勝己の態度の本気度なんか忘れてまた色々信じられなくなってくるわけで。勝己のことはもっと知りたいけど、将来有望なヒーローの卵だから忙しそうではあるし、まだ高校生だし、そもそも俺自身が同性と付き合ったことなんか無いしで、一歩も踏み出せやしない。手も繋いでない。付き合ってもうすぐ1ヶ月経つのにだ。

そもそも勝己は、俺とそういうことするつもりなんだろうか。もし仮にそんなつもりはなく純粋な憧れ(俺なんか相手にありえないだろうけど)だとしたら、何かするのは躊躇われる。

さあ、いよいよ回り回って告白自体が罰ゲームだった説が(勝手に)俺の脳内で濃厚になってきたとき、勝己から「今週末空いてるか」とメッセージで連絡が来た。「空いてるよ」と返せば、「あんたの家に行きたい」と返事。断る理由もないので、了解の旨と住所を教えた。そこそこ散らかってるため、すぐに掃除を始めた。








「……えーっと、勝己……?」
「……………あんた、」
「え?」
「俺に、触ったり、しねぇんか」

いまだに状況は飲み込めないが、俺の家に来て数分後には、勝己は向かい合う形で俺の膝に跨っていた。その顔は赤いけど、どこか寂しそうで、その顔をさせているのはきっと俺なので、できる限り優しく問いかけたかったけど、勝己はすぐに本題に入った。頭の回転が速いからかな……。

勝己の言葉を反復する。触らないのかと、年下の恋人にそんなことを言われたのが、既にダメな気がする。休みの日にいじらしく俺を誘い、家に来て、ソファに座る俺に跨って。きっと短くはない時間悩んで、今日こうすることを決めたんだろう。

勝己が俺の左胸のあたりに額をくっつける。自分の心臓がどうなってるのか分からない。早鐘を打ってるのか、逆に平静を保ててるのか。うるさいのかそうでないのか、分からないけど、勝己がすり、と擦り寄ったことで、体温は多少なりとも上がった気がする。

「あんたがWなんとなくWで受け入れたのは分かってる」
「………、」
「分かってっけど、……全然、無理なら、最初から断れや」

表情が見えない。どんな顔をしてるんだろうか。それは分からないけど、現在進行形で勝己を傷つけていることは分かる。

「キメェと思ってんなら、もう、近づかねーから」

ああ、そうか。ストン、と心の中に安心が落ちてきて、肩の力が抜けた。どうやら全く同じことを、勝己も思っていたらしい。相手の気持ちを、真意を、見えないものを探りながら。いや、むしろ勝己の方が不安は大きかったはずで、だからこそ聞き間違いでなければ今、声が震えていた。

それならいい。勝己が言ってくれたから今一緒にいられるんだから、次は俺が伝えなければ。

「勝己」
「………んだよ」
「ごめんな」
「……………っ」
「キスしていい?」
「は、?」
「キス。したい」

ばっと目線を上げた勝己の顔に、みるみるうちに朱が広がるのを、ただただ見つめる。かわいい。もう勝手にしたいとこだけど、していいか聞いてしまった手前、答えを待つ。

……が、暫く待っても返事がないので、勝己の腰に腕を回して引き寄せる。俺にあまり体重をかけないよう気を遣っていたらしいので、それを全部取っ払うようにして、ぴたりと身体をくっつけた。腰と背中に触れてるだけだけど、筋肉がすごいのが分かる。鍛えてるんだなあ。こんな強そうで格好いい奴なのに、なんでこんなに可愛く見えるんだろ。

背骨にそって背中をなぞれば、勝己は少しびくりとした。ついでに、当たってるモノがいつからかちょっと硬くなってる気がする。若いなあ。俺に触られたら、そういう気分になるってことだろうか。

「……俺に、ムラムラしねぇんじゃねえんか」
「……………今それ聞いてもっとムラムラした」
「ッ死ね!!」

頭がいいし、冷静な時は大人びて見える方だけど、それでもまだ16歳の男子高校生だ。だから慌てるのは仕方ない。とりあえず親指で唇をなぞれば大人しくはなったので、次はこういうとき目を閉じるんだと、教えてやらなければ。


可愛さ余って愛しさ百倍

今日はキスだけ、を頭の中で一万回繰り返した






うまこさん、リクエストありがとうございました。
夢主がヒーローと無関係な感じのシチュエーションを書いたことがあまりないので、新鮮で楽しかったです。かっちゃんは一途だと信じて疑わない派なので、その雰囲気が少しでも出せていたら嬉しいです。