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「やあ、ナマエ」
「……勝手に名前で呼ぶな」
「つれないな」

劣等感は、人を歪ませる。

オールマイトの輝きに埋もれるようにして、社会の影は濃くなっていく。それと同じように、立派なヒーロー及びその卵は、周りを嬉々とさせるし、絶望させる。
それは前々から分かっていたことだが、ナマエを見てからはより一層、そう思うようになった。人の心は簡単に壊れる。かつての自分がそうだったように。

綻びがいつできるか、何によってそれが亀裂となって現れるかには、個人差がある。ナマエにとってはそれが、元々は仲間だった人間への劣等感だった。どう努力しようが勝てない。持って生まれたものの差を痛感したとき、ナマエはこちら側に来ることを選んだ。強さへの執着もここまでくると狂気に見えることだろう。俺にとっては、愛らしさにすら感じるけれど。

「また個性伸ばしの訓練か?」
「話しかけんな」
「何言ってる。もうW仲間Wだろ?」
「───……」

瞬間、燃え上がる炎。周りの建物は焼けず、俺の服の裾だけが黒く焦げた。俺の皮膚を焼くことだってできるのに、こういうところがいじらしい。

もちろん、ナマエ自身は服も無傷だ。燃やす対象を限定できる。これがナマエの個性の真髄で、正直なところこんな強力な力を持っているなら、こちら側にこなくても、W奴Wと渡り合えただろうに。W奴Wとの差別化も十分にできていただろうに。目に見える戦闘能力の差があったのだろうか。隣に並び立って戦うことは耐え難かったらしい。

炎としての性能は確かに、たとえば荼毘にだって劣るけど、十分にヒーローになれる素質を持っていたのに、同じ時代同じ学校にいたのはあのサラブレッド、エンデヴァーの息子。

「危ないな」
「帰れ」
「……ハイハイ」

俺はこの通り初めから嫌われているが、まあ荼毘なんかは個性の近さ故にもっと酷いので、気にしないことにする。連合のメンバーの誰のことも、仲間と思っていないんだろう。ナマエが考えているのは、強くなることだけ。勝てない相手に勝つため、比べられているという自己解釈によって傷ついた自尊心を守るため。元々親のいない家庭らしく、自分の意思のみが動く理由だと言うから、それらの目的のためならと俺たちの側についた。

もしもいざ、奴──轟焦凍──と相対するかもしれないと思えば、これほど面白いことはない。

そんな悪戯心があるから、ついつい構いたくなるんだろうか? 一人で幻影と戦うナマエの、その背中につい、言葉を投げかけたくなった。まだ高校生であり、所詮はまだまだ卵だ。こちら側にいて孵化するかどうか、それはまた別の話だが。

「……今ならもう、勝てるんじゃないか?お前の大好きな、W轟焦凍Wに」
「………ッ!!」

ガン、と一際大きな音が響く。何か蹴り上げたんだろう。焦げ臭い匂いとともに、ナマエの足元には、黒く焦げた跡。ズボンも靴も燃やさずに、床だけ焦がした。手だけでなく、足でも炎が出せるらしい。

轟焦凍に勝てないというその劣等感が燃料だろうに、奇しくもこいつは轟焦凍に惹かれているように見える。それが面白い。

───面白いと、少し前までは思っていた。

「……それにしても、轟焦凍かぁ……。オールマイトのついでに殺して──」
「余計な真似すんな。殺すぞ」

前まではこの、憎さ余ってなんとやらとでもいうべきか、轟焦凍に過剰に執着するナマエを見るのが面白かった。轟焦凍への羨望、嫉妬、悔しさ、もどかしさ、それらが大きくなりすぎて、逆に焦がれるようにその対象のことだけを考えるナマエが滑稽だと思っていた。

それがどうだ。あまりに他を見ないその瞳を、俺を見ないその目をこちら向けたくなった今は、エンデヴァーの息子とやらを殺したくて堪らないじゃないか。自分にこんな情が残っているとは思わなかったから、その持て余す限りの感情を、ナマエにぶつけることしかできそうにない。

「ナマエ」
「……何だよ」
「もし俺が全てを壊したら、そのときは俺と一緒に堕ちてくれよ」
「死ね」
「ああ、そのときは、お前も連れて行く」

俺の言葉を不快に思ったのだろう、ぎろりと睨まれる。それを可愛いと思う俺は、啼かせたいと思う俺は、どこかおかしいんだろうか。
星を閉じ込めた

いつかその細い首筋に手を伸ばして、塵にしてしまおうと思っていたのに。






ネロさん、リクエストありがとうございました。
本当に本当にお待たせして申し訳ございません…。
おそらくご本人様に読まれることはないだろうと思いつつ、そっと置かせていただきます。

闇落ち系のお話を書いたことがなく、書いては消してを繰り返していました。イメージと違ったらすみません…!
弔くんの無意識の執着が多少なり表現できていたら嬉しいです。