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あいつと初めて会ったときは、男のくせにお綺麗な顔と長い睫毛と、その横顔の儚さみてぇなモンが印象に残る、いけ好かない野郎だ、と思っていた。
ヒーローを目指すような奴には到底思えないようなスカした面は、たとえば轟なんかとはまた違う端正な顔立ちで、暑苦しさも感じない。そういう個性があるわけでもないのに、そいつの半径1メートルくらいはちょっと涼しい風でも吹いてるような、汗を拭った側から甘ったるい香りがするような、そういう雰囲気を持っていた。
けどその腹の中には野心みてぇなモンもちゃんとあって、ヒーローになることへの執着もあって。周りを冷静に見られる視野の広さとサポートの巧さは正直、俺にはない能力の域だった。頭の回転も速い。敵に回したくないっていうのはああいうタイプのことを言うんだろう。
そう、だからある程度、認めてはいた。モブの中でもかなり上位の実力者だと。気付けば自分の視界にいることには気付いていたが、それが自分から視界に入れていると気付くのには約一年かかった。二年のときにクラスが離れたとき、ふとした瞬間にあいつのことを考えて、移動教室のときに目が行くようになって自覚した。トドメは三年でまた同じクラスになったとき、あいつと目が合うと明らかな動悸を感じることだった。
「爆豪も呼ばれてたんだ。よろしく」
ちょっと昔のことを考えすぎてたかもしれない。チームアップの集合場所で声をかけてきたミョウジはプロヒーローになっても変わらず、涼しげな表情で俺を見ている。変わったのはたぶん、俺の見え方と感じ方だけだ。皮肉のつもりで言っていた綺麗という表現はまるっと認めざるをえないし、相変わらず睫毛は長くて、伏せた目元に無駄に色気がある。儚さも相変わらずで、しかもそれが今や「放っておけない」と危なっかしさとして感じるようになった。
あとは元々整っていたその顔はそのまんまだが、高校のときにはそこまで感じていなかった自分の感情のコントロールに手を焼く。なんせ、元が良いからこそ、羞恥や快楽で歪んだ表情が見たいと思ってしまうようになった。自分が歪ませたい、とも。好いた相手の痴態を想像すること自体は仕方ないと開き直りつつ、それが高校からの同級生で仕事仲間、加えて同性となると話は別だ。
「……爆豪?」
「ンでもねぇわ。……離れろや」
会うと、情けないことにフラッシュバックなんてモンも起こるようになった。それほど何度も想像した。
その形の良い唇に舌を捩じ込んで口内を犯せば、感じた声を漏らすんだろうか? 舌を絡めて、上顎や歯列や舌の付け根をなぞってしつこく求めれば、やがて身体の力は抜けて、俺にその身を任せるんだろうか? そしたら、潤んだ目元はさぞかし扇情的だろう。
そしてヒーロースーツを着ていても分かる引き締まった身体は、それでも体質なのか自分と比べれば薄くて細くてしなやかで。きっと組み敷いて服を乱せば、視界に広がるのは絶景だろうし、ミョウジは肌が白いから、その皮膚に吸い付けば、ありありと厭らしく痕が残るに違いない。
───と、勝手にあれこれ考えていたバチが当たったのかもしれないと思ったのは、無事に合同の任務が終わった後のことだった。
任務は完了したが後処理に追われて、解散の時刻が遅くなりホテルに泊まることになって、気付いたら俺は、ミョウジと同部屋になっていた。確認だが、俺は男が好きというわけでもなんでもなく、ムラムラするのはミョウジにだけだ。そして、今回のチームアップには上鳴・瀬呂・轟もいた。あいつらは三人部屋だと言う。何通りもある組み合わせのパターンの中で、なんで俺とこいつが二人部屋なんだ。襲えってか。
「……ごめん、爆豪。やっぱ、俺と同室は嫌だったよな」
「は?」
「俺が、瀬呂達に頼んだんだ。爆豪と話したいから、二人部屋にしてって。……けど、爆豪の気持ちとか考えてなかった。ほんとごめん。今からでも瀬呂とか上鳴と代わってもらってくる」
「……ッ、待て」
部屋に突っ立った俺のその様子を見て色々と勘違いをしているらしく、ミョウジは部屋を誰かと変わるという。それはつまり、ミョウジと誰かが同じ部屋で寝るわけで。三人部屋だとしても、二人きりなんかじゃないとしても、それは許し難かった。俺のもんでもないのに、馬鹿な独占欲だと思う。
そして気付いたらその腕を掴んでいた。筋肉はあるけどやっぱり細くて、その気になれば力づくでどうにでもできそうだと、場違いなことを思った。
「話あんだろ。言えや」
「…………大したことじゃないから、大丈夫」
「ンなわけねぇだろ。わざわざ部屋まで指定したんだろが」
ミョウジは少し振り払うような仕草をしたけど、力で敵わないと思ったのか、すぐに諦めて俺に向き直った。その顔が泣きそうな面に見えて、不謹慎にも昼間の妄想と重なって少しだけムラムラした。
「俺、何かした?」
「………はァ?」
「だって、……俺への態度だけ、おかしかったから」
それは。
お前で邪なこと考えて気まずかった、なんて、言えるわけがない。
俺の頭ん中では何百回とお前は俺に抱かれてるし、優しくしたり酷くしたり強引に迫ってみたりする度に、おまえは俺の下で感じて喘いで啼いて、最後には背中浮かせて腰震わせて、エロい顔でイってんだよ。おまえは知る由も無ぇことだけどな。
返答に迷う俺に、ミョウジは何を思ったのか、「もしかして、気持ち悪かった?」とぽつりと零した。何が、と聞き返す間は無かった。ミョウジが俺の肩に額を押し付けてきたからだ。急にゼロになった距離と、肩に触れる体温と、ミョウジの匂いに、心臓が不整脈を起こしかけた。モノは勃った。
「爆豪は勘も良いだろうし、気付いてたらごめん」
「……何が」
「俺、爆豪のこと、高校の時からそういう目で見てる」
Wそういう目Wが何を意味するか分からないほど鈍くはないし、俺に比べれば見てる程度ならかわいいもんだと思うが、ミョウジはそうは思ってないらしい。俺から離れると、痛みに耐えるような深刻な表情で「ごめん、こんなのと一緒の部屋いんの、気持ち悪いだろ」と言って、もう一度踵を返そうとする。ネガティブが過ぎんだろ。まあ、同性をそっちの意味で意識すんのは、圧倒的に少数派ではあるけどな。
肩を強めに掴んで、すぐ側にあるベッドに引き倒した。ミョウジの身体は3分の2ほど乗り上げる形になり、俺はそれにのしかかるようにして腰を押し付けた。ごり、とモノが当たる感覚がミョウジにもあったようで、顔を赤くして目を見開いて俺を見る。困惑と緊張が手に取るように分かる。いつもの涼しいカオはどうしたよ。
─────あぁ、お前、マジでそういう顔すんのか。たまんねぇ。
「俺もてめぇにムラムラしてっし、逃げてぇんなら今の内にそうしろや」
「っ、ばく、ご」
「まァ逃がさねぇけどな」
腕を押さえ込んで身体を倒せば、どこもかしこも密着して心地いい。耳元に顔を埋めれば、より強くなるミョウジの匂い。そのまま耳を食めば、腕の中の存在がびくりと素直な反応を示す。このまま食っちまいてぇ。興奮が衝動の背中を押そうとするのを何とか堪えて、「最後まではしねぇから、今は触らせろ」と耳元で告げる。
「まっ、て。爆豪、お、俺で勃ってんの……?」
「……今てめぇに当ててるWコレWが分かんねぇんか?」
「っ、わかる、けど、」
「つーか、勃つどころか、俺はここ何年もてめぇで抜いてんだよ」
更に真っ赤になって、信じられないという顔で俺を見上げるミョウジに、不覚にも可愛いと思ってしまう俺は大概かもしれない。これからどうやって伝えるか、あと今日どこまで触るか、どこまで我慢できるか。俺次第なようで、実質、俺の下で恥ずかしそうにするこいつ次第だなと思った。
「……俺も、」
「あ?」
「おれも、ずっと前から爆豪で抜いてる、ごめん……」
……………最後までしねぇっつったのはどこの誰だよ。今すぐ死ぬほど抱き殺してぇわクソが。
月が綺麗で、死んでもいい
欲しくてたまらなかったものが手に入ったときの、その幸福の名前ごと
伍代さん、リクエストありがとうございました。
両片思いという概念が本当に難しいなと常々思っているので、リクエストに沿えているかやや不安ではありますが、楽しんでいただけていたら幸いです。