年末特有の特番ラッシュ。バラエティとか歌番組とか、去年はそこそこテレビを見ていたと思う。今年はまったく頭に入らなくて、ただのBGMになっている。

大晦日は互いに仕事が入っていなかった。というより、なまえが元々休みの予定になっていたので、伊地知を脅して休みをもぎ取った。何せ、昨日からなまえが僕の家に住んでいるのだ。なまえと年越しができるなんて、こんなチャンスを逃すわけにはいかない。ちなみに、夢かどうかは何度も確かめたので、これは現実である。

なまえが作ってくれた年越し蕎麦を食べ、何気ない話をし、二人分の洗い物を僕がして、なまえに風呂に入るよう促す。風呂にはそのまま先になまえが入って、上がったら僕が入る。なんというか、この眼に入る全ての光景が一緒に住んでいることを突き付けてきて、感情と行動のコントロールに手を焼いている。幸せな疲労感がずっと消えないままだ。

「なまえは今までの年末年始とか、どうしてたの?」
「あー……、硝子と飲んだり、七海と飲んだりしてた時以外は、一人で家で年越してたよ」
「は? 硝子? 七海? それ僕、呼ばれたことないんだけど」
「悟が俺のこと嫌いなんだと思ってたから、声かけられなかったんだよ」
「……それは、僕が悪いね」
「そうかもね」

ふふ、と笑うなまえの手には缶ビールがあって、何となくほろ酔いぎみなんだろうなってことは分かる。こんな可愛い姿を、硝子や七海に見せていたのか。自分が悪いとはいえ嫉妬はとめられなくて、それを抑えるのに脳内がせめぎ合う。

「次、誰かと飲む時は、ちゃんと誘うから」

柔らかい声が、鼓膜をくすぐる。本当は、そもそも行ってほしくない。誰にも見せたくない。でも、特別でいたいからこそ、何も言えなくて。

「……僕、めちゃくちゃ独占欲強いみたいなんだよね」
「知ってるよ。でも、俺が飲むの好きなのも知ってるだろ」
「………」
「悟は俺からそれを取り上げたりしないから」
「………」
「だからいつもW行くなWとは言わないんだよね?」

何もかも見抜かれていたことが恥ずかしくて、目を逸らす。この人誑しめ。普段より少しとろりとした目をしていると分かっているのに、そんな風に信頼を預けられたら、むず痒くて誇らしくて、やすやすと裏切るなんてできやしない。

なまえのことをみんなが好きになるのは癪だけど、でもそれがなまえの良さだから、結果として僕ができるのは、嫉妬してその度にこの感情を伝えることだけだ。

「なまえ、好き」
「……それも、知ってるよ」
「キスしたい」
「………」

ソファで隣合っているから距離も近いし無理やりするのは難しくないけど、できれば少しくらい自分に陥落してほしい。もう僕はこれ以上落ちられないってくらい、なまえに参っているから。

「いいよ」
「へ、」
「ん」

もしこれがアルコールの力だとしたら、テーブルの上の缶ビールに本当に心から感謝せざるを得ない。だって僕の前には今、キス待ち顔のなまえがいるのだ。好きにしていいと言わんばかりに目が閉じられ、ほんの少し顎を上げて、こちらを向いて止まっている。かわいい、かわいすぎる。本当に僕と同い年の男なの? そこらの女子より可愛い。

脳内時間で1時間ほど見つめていた気がするそれに、ふに、と唇をくっつけて離した。

そろりと目を開けたなまえは、ほんの少しだけ首を傾げて言った。

「……それだけ?」

その一言で全ての我慢が水の泡となった僕は、なまえをソファに引き倒し、その唇に噛み付いた。テレビから、ハッピーニューイヤーなんて声が聞こえる。新年の挨拶などすべて忘れて、なまえに溺れるこの幸福を、何と表現すれば良いのだろうか。

「悟、明けましておめでとう」

キスの合間に、なまえが微笑みながらそう言う。ずるい。そんな笑顔、滅多に見られるものじゃなかった。なまえが誰かに微笑みかけているのを、羨ましく思っているのみだった。これからは、僕にも少し見せてくれるのだろうか。

「……明けましておめでとう。今年も、よろしく」

ぎゅっと強く抱き締めて絞り出した声は、めでたいこの新年を祝う挨拶の言葉にしては少し頼りなかったかもしれない。だけどなまえが楽しそうに笑うから、もうなんでもいいかと思った。テレビを消して、とくん、とくんと一定のリズムを保つ鼓動を聞く。幸せというのはきっと、こんな足音をしているのだろう。