最近、後輩が増えた。元々いた伏黒に加えて、男子が一人、女子が一人。一人は悟さんが後から連れてきた奴で、死んでたはずが生き返ったらしい。何だそれすごい。しかもそいつは特級呪物である宿儺の指を食べたらしい。……指って食べれんの? なんか色々規格外すぎる。

まあそんな虎杖と近接戦闘の訓練をしてみて思ったこと。かなり強い。パワーもスピードも反射神経も凄い。呪力を使わない戦闘ならそのうち抜かれるな……なんて思いながら、虎杖を投げて腕を背中側で抑えて、地面に張り付けた。

「んっぐ……! みょうじセンパイ! ギブ! ギブギブ!! 折れちゃう!!」
「あぁ……ごめん、考え事してた」
「考え事しながら俺のこと投げたの!?」
「悪かった悪かった」

ぎゃんぎゃん吠える虎杖から腕を離し、頭を撫でてやると、気持ちよさそうに目を細めるもんだから、暫く撫でてやった。コレの中にあの両面宿儺がねえ……。俄かには信じがたいけど、悟だけじゃなく伏黒も確かにそうだって言ってるわけだし、間違いないんだろう。

呪術師やってれば、死んだなと思ったことも、実際に死にかけたことも何度もあるけど、本当に死んだことは流石にない。そう考えたら、虎杖の経験してきたことは、明るくて年相応な少年の顔に似つかわしくない人生だ。

「虎杖はすごいな」
「たった今センパイに投げ飛ばされて捻られて押さえ込まれたけど!」
「まぁそういう時もあるって」

最後にぐしゃぐしゃと髪を掻き混ぜてやったら、ちょうど昼休憩に入った。みんなと一緒にコンビニに買いに行こうとしたところで、腕を掴まれる。不意を突かれたのでちょっとだけフラついた。

「すじこ」
「……棘? 昼メシ、」
「おかか。明太子」

俺の腕を掴んだのは、棘だった。口元が見えないから分かりづらいけど、機嫌がよくない。拗ねてる感じに見えるけど、なんでだろ? 分からないから理由を聞こうとしたら、掴まれた腕に力がこもって、ずるずると引きずられる。
パンダは少し呆れ顔で、「俺らは俺らで昼、食べるから」と手を振っていた。いや助けてくれても良くないか。俺らだって一年生との交流は大事なんだけど。




連れてこられたのは棘の部屋で、部屋に着くなりドアと棘との間に閉じ込められたので、さていよいよどうしたら良いか分からない。
そもそも道中だって、色々と不機嫌の理由を探って謝ろうとしたけど、そのタイミングではあまり話す気がなかったのか、返答は全部「おかか」だった。まあつまりノーだ。

棘が口元まである制服を指で少し下げた。端正な顔が近付いてくる。相変わらず睫毛長い。距離が縮まって、ゼロになって、唇がくっついた。

棘と俺は、いわゆる恋人同士だ。完全に知っているのは一応、偶然バレたパンダだけ。あとは、真希にははんとなく気付かれてそうだけど、何も言ってこないあたりがあいつは優しい。

「……棘、俺、なんかした?」
「…………おかか」
「なにその間。……けど、してないってこと? じゃあ何で、」
「いくら。ツナマヨ」

棘が口元のファスナーを下ろす。呪術ありの訓練の反射で、背中にはドアがあることも忘れて、少し体を引いて構えてしまった。当然距離は取れないので、まあこのままだと普通に呪言の餌食だけど、棘は何も言わず、ただ強引に俺の襟元を掴んで引き寄せた。

「とげ、ッん、ぅ」
「……、………」

キスだと気付いたときには、舌をなぞられる感覚があって、息苦しさから逃れようとしても、棘の手が俺の後頭部に回されていて叶わない。
棘もパワーがないわけじゃないけど、単純な力だけなら、俺が勝てない相手じゃない。でもどうしてもこういうときに為すがままになるのは、たぶん惚れた弱みってやつ。

「……高菜」
「……っは、……怒ってたんじゃないの?」
「おかか、こんぶ」

棘は俺の右手を取り、指先に唇づけた。そして手のひらをなぞるように舐めて、ゆるく歯を立てた。ゾクゾクと背中を這い上がる何かは、何度も身体を重ねて、その度に棘に触れられて教え込まれて、快感として感じるそれと同じ。

棘は最後にちゅ、と音を立てて離れると、俺の手首を掴んで、そのまま俺の手のひらを棘の頭の上に乗せた。



その行為を、頭を撫でて欲しいと勘違いした俺が、結局その場では棘の不機嫌を解明できずに、また強引にキスされて舌を捻じ込まれたところで、昼休憩の終わりのチャイムが鳴った。
ぼくをだめにするだけのきみ


誰にも触らせたくないし、誰にも触ってほしくない、が真実だったらしい




title by 星食
2019.05.12