精悍な顔つきだと思う。釘崎は否定するが、かなりモテそうな外見だ。あまり表情の変わらないところも、女子の目にはクールで格好いい男に映ることだろう。羨ましい。

その、イケメンでモテそうで羨ましいことこの上ない伏黒だが、どうしてか俺にご執心なのだ。俺に。真希や釘崎じゃなくて、京都校の女たちでもなくて、そもそもの話が女子じゃなくて、俺にだ。



「みょうじさん、手合わせお願いします」
「またぁ……?俺より真希とかの方が参考になるって、型も綺麗でキレあるし。それかパンダ」
「あの人たちにはこの後、相手してもらいます。みょうじさんには勝つまでやります」
「こえぇ……。俺、そもそもあの条件呑んでねえからな!?」
「わかってます」

伏黒が突きつけた条件。
3本先取で一度でも勝てたら、俺に告白することを許してほしいと。

え?それって意味ある?告白したい、がもはや告白じゃないの?とは思いつつ、負けたらなんか色々ダメな気がして、勝負を受けては勝利して事なきを得ている。ちなみに、俺はさっきの条件に一度もイエスと言っていない。

そしてこの日も、まあそういうの諸々置いておいて、訓練なんだから、やるなら本気だ。手は抜かない。いつも通り、そう、いつも通りにやって───……そして、2本。伏黒を地面に這いつくばらせて、2本先取した。あと1本。いつもなら、2本取れたらホッとする場面だ。なのに今日は、嫌な予感がして。










そうして俺は初めて、3本先取の勝負で負けた。結論から言うと、動きを読まれていた。いや、動きの読み合いなんて、して当然だ。むしろ、何度も手合わせすれば、互いに動きを見て、その先を読んで読まれての勝負。それに負けた。

2本ずつ取り合っての5本目。伏黒の長物が、地面に仰向けに寝そべる俺の顔の横に突き立てられて、伏黒自身は俺の身体の上に跨っている。伏黒を視界に入れたその背景が空って、ちょっと似合わない。

「───好きです」

およそ、冗談だったと流すことはできないような声色で、後輩が言う。条件は呑んでないって俺、言ったはずなのに。

「どうこうなりたいとか、思ってません。これからも何もしません。ただの、あなたの後輩です。でも、気色悪いとは思うので、軽蔑しても良いです」
「………」
「俺の望みは、大したことじゃありません。俺が先輩を好きなことを、先輩に知ってもらって、危ない時は呪いがかかってるとでも思って俺を思い出して、絶対生きて帰ってきてください」
「……それが、ここまでして俺に伝えたかった理由?」
「はい。要は、生きるか死ぬかの色々ある要素の内の一つが、こんな馬鹿な話でもなんでも良いから、俺より先に死なないでほしいってことだけです」

表情の変化は読み取れない。元々、冷静な奴だ。俺に死ぬなって言うだけなら、ふつうに言えばいいんじゃないかと思うけど、そうしなかった理由は、たとえば本当に俺に焦がれてるとか、いやそれは無いか。無い、とは思うけど。今の、およそ告白しているとは思えないほど変わらないカオを見てたら、とりあえず確かめてみたくなって、伏黒の襟元を引っ張って、抱き込んだ。

「な、先輩、」
「しんぞう、」
「ッ、」
「伏黒の心臓の音、すげえ速いじゃん……」

抱きしめといてアレだけど。なんか、言葉の綾かと思ってたから、好きとかどうとかの感情の話は別に本気じゃないのかと思ってた。けど、ここでようやく、伏黒の声に、焦りと困惑と羞恥と、後はなんだろ。この熱は、どんな感情が入ってんの?

「貴方のこと好きって言ってる男をこの体勢で抱きしめるとか、余裕なんですね」
「……伏黒クン、あたってんだけど」
「当ててんですよ」

ああ、そうか、欲だ。俺に触れようって気持ちと、それを抑えようとする気持ちと。理性的な奴だと思ってたのに、こんな顔もするのか。腕を離せば伏黒の身体は離れたものの、俺に跨ったその体勢はそのままに、じとりと俺を見る。ごめんって。

「……とりあえず、退こっか」
「俺の部屋行きますよ」
「………………え、俺も?」
「先輩のせいなのに、俺が一人で処理するんですか?」

いつから、この図太くて生意気な後輩に、絆されてもいいかって思い始めたんだろうか。あの宣言をされたとき?だとしたら、完璧に術中にハマってんじゃん、俺。術式開示された上で、実際にめでたく呪われたってことだろ?
いとしい愛の怪物くん

俺のいない世界は嫌だって、だから先には死ぬなって、そんな熱烈な呪いの名前




title by 英雄
2019.06.03