少し早めのクリスマスプレゼントと称して、棘にネックウォーマーをプレゼントされた。

ありがとうと言うと棘はとても嬉しそうな顔でにこにこ笑うから、こいつ男のくせに可愛いな……と楽観的なことを思っていた。

思っていたのだが。




「……ッ、とげ、やめろって……!」
「おかか……」
「みえるとこには、付けんなって、いつも言ってるだろ……っ」
「しゃけ、……ん、……」

なんとなく棘が部屋に来て、暫くなんでもない時間を過ごして、そういえばネックウォーマーありがとな、なんて話をして。「明日から使わせてもらう」と言ったら、それをするりと取り上げられて、そこから変なスイッチが入ったように思う。

最初は普通にキスされて、俺もそれに応えていた。声を使う術式だからか、肺活量が人並み以上にある棘の、酸素を食い尽くすような長いキスのあと。耳を舐めたり食んだりしてきた辺りから雲行きが怪しくなって、いまは首をずっと噛まれている。痛くない程度にだけど下手したら噛み跡が残るし、時々吸いつかれているそれは確実に、わざわざ痕を付けられている。

「とげ、見える、から」
「……すじこ」

ようやく俺から離れて、俺にプレゼントしてくれたネックウォーマーを改めて手渡した棘は、やけに満足そうな顔をしていた。まさかこいつ。

「……痕つけても隠せるから、コレをくれたってこと?」
「しゃけ」
「……このムッツリが……」
「高菜」

棘はしてやったりと言わんばかりの表情で、するりと手の甲で俺の首元を撫でた。もともと首を触られるのが得意じゃない俺は、さっきまで棘が触れていたのも相まって、少しばかり肩を跳ねさせた。ますます楽しそうな顔をする恋人に怒る気も失せてしまった俺は、大概甘い。

ため息をついて、贈られたばかりのネックウォーマーを身に付ける。新品の匂いが鼻腔をくすぐるそれは、ふわりと肌触りが良いけれど、そこまで防寒用でもなさそうだったので、訓練中も付けていられそうだった。明日からは手放せなくなることを見越してなのか。だとしたら用意周到というか、なんというか。

周りの人は色々誤解してると思うけど、棘は見た目と語彙がちょっとミステリアスかつ可愛い系なだけで、中身はただの男子高校生だ。世間一般と違うところは、男である俺にとても執着していることくらいで、後は何も変わらない。だから独占欲もそれなりにある。……それなりかどうかは、後で鏡を見てみないと分からないけど。

「コレ付けてる時は隠せるとしても、風呂で一年と鉢合わせたらどうすんだよ…」

どれくらい付けられているか知らないが、虫刺されだと誤魔化せるくらいの数に抑えられているとは考えにくい。そう思って何気なく呟いた一言だったけど、この悩みの元凶はどうしてか俺をベッドに押し倒した。どうやらお気に召さなかったらしい。

「おかか、明太子」
「何に怒ってんの……」
「……ツナマヨ」

キスの後はいつも通り棘の口元を覆っていた制服の、そのファスナーが再びゆっくりと下される。それはいつもキスの前にしている動作で、どきどきしながらいつものそれを待つけれど、俺の思った展開にはならず、棘はゆっくりと言葉を紡いだ。もちろん声は出さない。ただ唇を動かしているだけ。

棘は普段、おにぎりの具か、筆談か、スマホのメッセージで言葉を伝えてくるけど、こうやって俺に直接、言いたいことを唇にのせる時がある。繰り返していくうちに、音の無いそれがだいたい読めるようになった。

Wおれいがいに、みせたらだめW

「見せたくないから言ってんだけど」

Wていうか、からだみせるのもだめW

「あいつらが入ってる時は俺は入らないとして、逆は対処のしようがないだろ……」

WまいにちおれといっしょにはいればいいよW

「………」

大浴場という名のちょっと広い風呂だから、同時に入るのは2人までという暗黙のルールがある。確かに棘の言ったことはひとつの解決策ではあるけど。

「……おまえ風呂で盛るからやだ」

W…………がまんするW

せめて俺の目を見て言え。

飲み込むサイレントプリズム


俺を好きにする力を持っていながら、言葉を交わさないその優しさが、何より甘い愛情なのだろう




title by 英雄
2020.12.19