「あ!モデルの御手杵くんだー!」

「かっこいー!」



本屋さんの前を通った時、聞こえてきた会話。
ちら、と目を向けると、可愛い制服と長い髪を下ろした女の子たちがきゃっきゃしてる姿と、彼女達が見ている雑誌が目に入った。
近くの女子高だ、反射的にそう思った。だから何というわけでもなく。


「スタイルよすぎー。身長192ってマジなのかな」

「マジだったらヤバくね?ちょー目立つじゃん」

「カッコイイからなんでも良くない?ほらーこれとか超エロい」

「「エローい」」



足は前へ進みながらも、耳は後ろの声を拾ってしまう。
病気みたいだ。気になるから拾うな拾うなと念じながら、勤務先へと向かった。





チリンと2回、耳馴染みのいい音と共に店内に入った。



「いらっしゃーーー、あ、おつかれさま尻尾ちゃん」

「おつかれさまでーす、、1人ですか」

「うん、堀川くん、熱出しちゃったって。悪いけど今日ラスト頼める?」

「あー…はい、大丈夫です」



ごめんね、ありがとうね。と店長に困った顔をして謝られた。
けど、お迎えあるんで大丈夫です、と言えば、あぁ、彼氏くんね。とふわりと笑った。
しかし堀川くんが熱って珍しいな、気疲れかな、主夫は大変だと思いながら支度してフロアへ戻る。
常連さん2組と、あまり見たことのないお客さんが2組。
いつもは決して忙しくないこのお店。今日は忙しくなるといいなぁ「すみませーん!」…程々にがいいなぁ。

「はーい!」




…………




休憩から戻ってくると、お客さんが増えてた。



「いらっしゃいませー」

「じゃあ、尻尾ちゃん、あとお願いね。」

「はーい。おつかれさまでーす」



店長はさっき帰って、今は私1人。
今日の売上は見込めるな、よしよし。そう思いながら注文をとってると、お客さんから小さな声で「すみません、」と声をかけられた。


「はい、どういたしました?」

「あの、…ええと、本日のケーキというのは」

「本日のケーキは桃のタルトです。夏限定ですよー」

「あ、はい、ありがとうございます、じゃあそれで…あの!お、奥にいる方は店員さんのお知り合いですか?」



うぇ、はい?思わず変な声が出た。
奥にいる方…?うちの店でいう“奥”の方を見ようとすると、「あ、見ない方がいいかも、です」と言われて顔を戻す。



「あの、」

「すみません、その、最初は綺麗な人がいるなと思って見てたんですけど…!その人ずっと店員さんのこと見てたから、お知り合いかなと思って、でもほんとずっと見てるから、」

「あ、それでわざわざ…。ありがとうございます。多分知り合いなんで、気になさらないでください。桃のタルト、お持ちしますね」



にっこり笑って席から離れる。
キッチンに戻る途中、例の“奥”の方に視線をよこすと、そこに居る人とバッチリ視線が絡んだ。

やっとこっち見た、と言わんばかりのヘラヘラした笑みを見せ、小さく、でもしっかりと手を振る。

ヤメロ、手を振るな。
数時間前に一瞬だけ見た雑誌の表紙を思い出して、溜息をつきそうになって、息を止めた。





相模 尻尾(24)
カフェ“遊び場”で働く一般人。バイトじゃない。事実上店長の次に偉い。
振り回されやすい

店長(56)
カフェ“遊び場”の店長。おっとりしている。

御手杵(24)
人気上昇中のモデル。テレビは出たことないので素性は謎。

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