「いやぁ驚いたよ。氷帝に相模の知り合いがいるなんてね」

『あはは…』


夕方までの練習が終わり、片付けをしていたところを幸村先輩に捕まりました。


「去年も来てたのに何も言わなかったじゃない。どうして?」

『去年は…私もそうコート周辺をうろうろしてませんでしたし…そもそもレギュラーだけで宍戸先輩たちいなかったですから…』


会ってない。そう、去年は顔を合わせていなかったのです。会ったのは跡部先輩くらいだった。


「もー、早めに言ってくれれば何らかの対策したのに。ダメだからね、勝手に氷帝に行ったりしちゃ」

『いや行きませんよ』

「連れていかれそうだもん、相模」


心配だよ。そう言いながら顔は笑っていた。多分冗談なんだろう、多分。


「さっき跡部に相模を貸せって言われてね。丁重に断わってきた。うちの大事なマネージャーをよそにやるわけにはいかないからね」

『あーありがとうございます…?』

「行きたかった?」

『いえ滅相もない』


めんどくさいの分かってるもん。また慈郎先輩に絡まれるのも目に見えてるし、断ってくれて万々歳だ。


「そう思ってくれてるならいいよ。じゃあ、19時から食事の時間だから、間に合うように来てね」

『はい。お疲れ様です』

「お疲れ様」


幸村先輩が振り返ったのを確認して私もその場を立ち去った。
切原くんはあのあとこってり絞られた。黙ってればよかったのに、氷帝に私の幼なじみがいるのことを幸村先輩に伝えに行ってバレたらしい。おかげで私も尋問を受けた。めんどくさいからやめて欲しい。

さて、ご飯まで1時間。お風呂に入るには早いし、準備だけでもしとくかと部屋に戻る。角を曲がってすぐ、部屋の前に人影が見えた。


『…何してるんですか、慈郎先輩』

「尻尾!」


こっちを見て顔を明るくした慈郎先輩。嬉しいけどこそばい。そしてこの先を考えるとめんどくさい。


「宍戸と岳人に尻尾と会ったって聞いたんだ!俺会ってないのにずるいC、会いに来た!」

『ご飯の時に会えるじゃないですか』

「それだと話せないかもしれないでしょ」


それに1時間もあるC!にこにこ笑う慈郎先輩。ここに来てもそれは変わりませんよと言うと、尻尾と一緒に待てるから!とまた笑った。


『お話するのは構いませんけど私の部屋本当に何も無いですからね。あと準備しながらになりますけど』

「全っ然いいよ!」


引きそうにないので部屋に入れることにした。6畳の部屋に机とポッドが置いてあるだけの部屋。1人なのにいいのかな、と思いながら有難く使わせてもらっている。


「尻尾の部屋完全に畳なんだね〜。オレんとこ畳とフローリング!」

『慈郎先輩どうせテキトーなところで寝てるでしょう』

「まぁね!」


嬉しそうに返事をする慈郎先輩にお茶を出した。ありがと!と言って受け取って飲み干す。


「おかわり!」

『喉乾いてたんですか?』

「練習後だC、ね」


それもそうか。差し出してきた湯呑みを受け取ろうとすると、反対に手首を掴まれた。


『…慈郎先輩?』

「んふ」


反動で手を引いたけど、びくともしない。そんなに力が入っているようには見えないのに。でも不思議と痛くはなかった。


「尻尾さ、宍戸と岳人のこと、名前で呼んだんでしょ」

『…話の、流れで』

「ずるい。オレまだ先輩外してもらってないのに」

『ええ…』


めんどくさ。そう思ってしまってすぐ申し訳なく思った。いやめんどくさいんだけど、がっくんや亮ちゃんだけそう呼ぶのは確かに、慈郎先輩が可哀想だったかもとか思って。でも失敗した、二人とも先輩付けで呼んだらよかったな…なんて思ってももう遅い。今は二人きりだし、プライベートとして見てもらおう。そうしよう。


『じろーくん』

「、尻尾」

『じろーくん。これでいい?』


慈郎先輩、もといじろーくんの顔が輝いた。口角が上がっていくのがわかって、こっちがむず痒くなった。


「尻尾!へへ、うれCー!!」


そんなに喜ぶ?
そう思いながら、抱きついてくるじろーくんに嬉しさを感じてしまった私がいた。