読み切り短編集

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『ーーーーーー伊月』

「…、何?」

『勉強、教えてくんない?』




ーーーーーーーーーーテスト週間。


俺たち学生にとって、魔の時間とも言える時間で、部活もなくてなんか物足りない、そんな週間。

で、今日はその2日前。授業に自習の時間が増えてきて、分からない所とかを質問できるようになる。
まぁ、今日自習があったのは数学だけで、数学は得意分野だから特に質問することなくただひたすら解いてたら終わっちゃったんだけど。


HRが終わって、ざわざわと騒がしい教室。さっさと帰る人や、残って勉強する人、早く帰れるからと遊びに行く人など様々いる中で、俺はさっさと帰って勉強する派だ。部活の勉強会もないしね。

とりあえず今日は物理でもやるかなー…と思って、教室から出ようとした。そこで、声をかけられたのだ。

ーーーーーーーー#name2#に。




「…だから、ここに代入して。式変形して、こう」

『………うん』

「分かってる?」

『ごめんさっぱり分かんない』

「だと思った」



少しふてくされたような表情してる目の前のクラスメイトーーーー…#name2#、尻尾は、1年の時から同じクラスで、多分クラスの女子の中じゃ一番仲良かったと思う。


初めて話したのは二学期のおわりくらい。席替えで隣になったとき、あいさつがわりにかましたオレのダジャレにちょっとだけ吹き出してツッコんでくれた子。そんな子今までいなかったから、嬉しかったのとちょっと照れくさかったのを覚えてる。それがきっかけでよく話すようになって、席が離れてもちょこちょこ話はしてて、オレが自然とそういう気持ちを持ったのも納得できると思う。


だけど、2年にあがって話すことはなくなった。

別に避けてるわけでも、避けられてるわけでもない(…と思いたい)。嫌われるような事はしてないと思うし、多分あっちの心境に変化でもあったんだろう、と思って気にしないようにしていた。ホントはすごく気になってたけど。



『う"ー…ん…?』

「ほんっと数学に関しては理解力ないよな…」

『…大きなお世話』

「不貞腐れんなよ」



あぁ、久しぶりだ。
こんなふうに話したのも、#name2#の顔を近くで見るのも。

暫くなかったこの距離感。
少しだけ、心臓がうるさい。



『…ここ、加法定理?』

「正解。わかってんじゃん」

『ここは好き、だし…』



どくん。

好き、の二単語に簡単に反応する心臓。
オレに対して言ったわけじゃないのに。あぁもうやめてくれ、心臓に悪い。


「そーゆートコは変わってないよな、お前」

『どーゆートコよ』

「…数学苦手なトコ」

『うっさい。言うの何回目?』



思わず口が滑ったけど、まさかそこまで言えるわけないし。
はぁ、と、軽いため息をついた。



暫くの間静かになって、カリカリと鉛筆の音だけが聞こえる。
ここは大丈夫だな、と思って、オレは古典単語帳を開いた。




…どのくらい時間がたったのか。わからないけど、前から視線を感じて顔を上げる。こちらを凝視していたのだろう#name2#と目が合って、その途端バッとそらされた。
…、地味に傷つくなぁ。

どれ、ちょっとからかってやろうと思って口を開く。
でもそれより先に、#name2#が口を開いた。


『…伊月ってズルいよね』

「え。…何が」

『……別に』

「なにそれ、」


気になるじゃん。

オレがズルイ?いやそっちの方がズルいだろ。
2年に上がって話さなくなって目すら合わないようになって。多分この気持ちを伝えることは無理だろうな、って思って。でも、やっぱり、気持ちは変わんなくて。


あー、なんかちょっとムカつくなぁ。

ガタン、と音を立てて立った。
#name2#はびっくりしたんだろう、そらしてた顔をまっすぐオレに向けてる。

その顔に、自分のそれを近づけて言った。


「オレのどこがズルいの?」

『どこ、がっ、って…』


顔を赤くして目をそらすもんだから、両手で顔を包んで目線をオレに戻す。
あー顔真っ赤。かーわいー…


『ちょ、あの』

「いうまでこれだからね」

『……っそういうトコ!』



ガタンと席を立って、オレから離れる#name2#。
そういうトコ?え、オレ今なんもしてな…してたか。


…………………え?


いつの間にか道具を片付けて、スクールバックを肩にかけてた#name2#。

帰るつもりか。そう思って、待って。そう声をかけようとすると、また先をこされた。


『…2年に上がってすぐ、伊月に彼女が出来たっていう噂を聞いたの』

「…は?」



彼女?正直告られたことは何度かあるけど、彼女がいたことは一度もない。誰だそんな噂流したやつ…



『私と伊月、…勝手な思い込みかもしれないけど、クラスで一番仲良かったでしょ。けど、彼女出来たって噂聞いて…もう一緒にはいられないかなと思った』

「…なんで」

『彼女さんに悪いじゃん』

「…噂だよ?」

『知ってる。でも、私の周りの人、伊月を好きな人結構いたの。私一年の頃から結構妬まれてた…っぽいし。だから本当なんだろうなぁって』


思ってた、なんて言って笑う#name2#。




『でもあれ、嘘だったって聞いて。そしたら、なんか、戻りたくなって。あの頃みたいに話したくなっちゃって。』


どくん。
心臓が音を立てる。



『ちょうどテスト期間だし。数学わかんなかったから、教えてもらおうと思って。…ほんとは、佐野君に誘われてたんだ。図書館行って勉強しないかって』

「!」

『でも、断っちゃった。教えてもらう人、いるからって言って』



どくん。
また音を立てる心臓。


「そ、れって…どういう、」


#name2#は既に教室の入口近くにいて、ドアに手をかけてた。ガラリ、と音を立てて開いたドア。


#name2#はこちらをまっすぐ見て、笑って言った。


『多分、私と伊月、同じ気持ちだよ』


ガラララ、ピシャン。



音を立てて締まったドア。教室にはいつの間にか誰も居なくなってて、窓からは夕日が差し込んでた。


『多分、私と伊月、同じ気持ちだよ』



「それ、って…」



自惚れても、いいの?

力が抜けて、ガタンと椅子に座り込む。
あぁくそ、顔が熱い。




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


伊月ィィィ!!!
なんかまさにせーしゅんてかんじします。
初めて拍手を頂いて、調子乗って書いてましたヒャッホウ
伊月にナデナデされたい

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