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『……んー…』
微睡みの中、少し冷える外の温度に体を震わし、暖を求めてもぞもぞと動く。
近くに何か暖かいモノがあるのがわかって、それに必死に近づこうとする。でもなんか、体が、重い。
『……………………?』
流石に意識が浮上してきて、薄目を開く。目の前に見覚えのある模様が見えて、働かない脳で少し考えた。
…………あ、れ?
だんだん脳が覚醒してきたらしく、目もぱっちり開くようになった。何度か瞬きして焦点を合わせると、やっぱりどこかで見たことがある模様。緑のトゲトゲ。…………あぁ、
『ちとせー…』
暖かいモノの正体は九州生まれ、右目が弱いがテニスは強い。だが、トトロが好きな放浪グセのある大男。
テニス界でいえばおそらく知らない人はいないだろう、千歳千里だった。
そういえば昨日、千歳に抱きつかれてそのまま寝たんだっけー…?
記憶は曖昧で、昨日何があったのかまともに思い出せない。ただ、記憶の片隅にあるのは、千歳が、妖しく笑った顔で。
『………ちとせ、昨日うちになんかした?』
「………………」
『……ぁー…、まだ寝てたんだ、った…、』
千歳はあったかい。
布団の中だから、というのもあるだろうけど、千歳の体温は普通の人より高いから、なんだろう…安心する。
千歳はよく裏庭だとか山だとかで昼寝していて、尻尾自身そこに呼ばれることも少なくなかった。
また、千歳を起こそうとして巻き込まれたり、無理やり連れていこうとして押し倒され(エロい意味ではなく)たり。
そうしてよく、抱き枕にされたり膝枕されたりするのだ。
そして最近、千歳は尻尾の家にまで居座るようになった。何がきっかけなのかはわからないが、気付けば家の中にいる。
しかし、もはやそれすらも気にならなくなった尻尾は、千歳に染められていると言ってもおかしくはないだろう。
尻尾は起きようとするが、背中に回された腕が邪魔で起きることができなかった。
何度か手の皮をつねってみたり髪の毛を引っ張ってみたりしたけれと、全然意味をなさなかったらしい。
『あーもう…起きてよ…』
「んー…」
何をしても起きない千歳にため息をついた途端、ぐっと引き寄せられる腰。近づく顔。ちゅ、と軽いリップ音が響く。
『………千歳ェ』
「……殴るのは勘弁たい」
のっそりと腕を上げると、千歳はその腕を掴んでへらぁ、と笑った。寝起きが悪い千歳にしては珍しくご機嫌らしく、またぎゅううと抱き締めてくる。
『起きてたんなら離して…』
「いやばい。尻尾いい匂いするとー」
『知らないよ…離して。お腹すいた』
「俺を食べればよか」
『………バッカじゃないの』
「尻尾って低血圧やね。ツッコミにキレがないと」
『朝から千歳の相手するほど元気ないよ』
「えっ」
『変な意味で捉えんなよ変態』
エロいコト考えたんだろう、千歳の腕がゆるんだのを感じてサッとそこから抜け出す。…うわ、寒。
「あー…尻尾いかんとってー…」
『うるさい。朝ごはん作んないと』
「今日学校じゃなかよー?」
『あんたは部活だろーが』
「…………俺のため?」
きょとん、とした顔でこちらを見る千歳。
それ以外なにがあるっていうんだ。
「尻尾が真正面からそう言ってくれたのは初めてたい」
『…そーだっけ?』
「うん。尻尾ツンデレやけん」
『私がいつツンデレになった』
まだ眠いのか、ふにゃふにゃした笑みを見せる千歳。
不覚にも可愛いと思ってしまい、さっと顔を背けた。
『…とにかく、早く着替えて顔洗ってきな。その間にご飯作るから』
「わかったばいー…あ、尻尾」
『なによ…んむ、』
いつの間にか後ろに来てた千歳に捕まって、唇を押し付けられる。
舌は突っ込まれなかったけど、なかなか離してくれなくて危うく酸欠になりかけた。
『………千歳』
「怒らんとってー」
またのっそり腕を上げるけど、また捕まる。
あぁもう、と思ってため息をつく。
けど、
「愛しとうよ、尻尾」
この一言で許してしまうんだから、つくづく千歳には甘いらしい。
(私も、愛してるよ)
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