読み切り短編集

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いつもいつも、本気になったことなんてなかった。



だいたい小さい頃から、習えば大抵のことはある程度できた。
勉強だって授業で習ってればテストも80点はとれてたし、スポーツも好きだしできてた。



普通の人より上の位置。私のレベル。

それのせいか、私は本気、というものになったことがない。

本気になりたい。なにかに一生懸命取り組んでみたい。
その気持ちはあっても、いざ、そうしようとすると、その情熱さえなくなってしまう。
そんな自分が、気に入らなかった。



『…だからなんだろうね。勉強しようとしてもなかなかできなくて、イライラすんだ』


「俺とは別の人間だよネェ。俺なんか必死で好きでやってきた野球、取り上げられたのニ」


『私だって取り上げられたものはあるよ。そりゃアンタほど苦ではなかったけど…でも、ある程度すればなんでもできるって、つまんないんだよ』


「凡人にはよくわかんねぇヨ。」


『そっちのが幸せだと思うよ。何かを努力して、手に入れた何かっていうのは、なによりも価値があるものだと思うから、さ。』


「何も努力してないのに何かを手に入れちゃダメなのか?」


『…』


「ダメじゃねーだろォ。少なくとも自分で手に入れたモンは価値があると思うネェ、俺は」


『…荒北は、自転車…楽しい?』


「アァ?楽しいに決まってんだろ。腕が使えなくなった俺でも、できる競技だ。だから俺は福ちゃんに感謝してるしナァ」


『大学に行っても、ロードは…』


「するに決まってンだろォ。」



私は、荒北がすごい羨ましく思える。

努力していて手に入れたものが手からすり抜けてしまって、絶望のそこにいたことを私は知ってる。


けど、そこから這いあがった。
そこから、福冨の支えもあって、動き出した。


私には一体、何があるのだろうか。




(ダァカラ今チャリ部のマネしてんだろ?なにかに本気になりたいなら、って誘われたんじゃねーか)
(…そうだね、)

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