読み切り短編集

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ぎし、

ぎし、



ぎし、




私がいる部屋に響くスプリング音。


この部屋にベッドはないから、この音はソファーから出てるものだ
ぎし、

ぎし、




…あ、やましいことしてる訳じゃないよ。
彼が、筋トレしてるだけ。

ふと気になって、彼のむき出しの肩を叩いた。




『…ニック、いつまで筋トレするの』


「''飯できるまで''」


『夕食まであと何時間あると思ってるの?』


「''知らねぇ''」


『…3時間はある。体壊すよ』


「''壊さねェよ。舐めんな''」


『………………』



はぁ。
ニックは時間が空いたらとりあえず筋トレする…ってくらいには筋トレ馬鹿で、時間なんか気にせずやっちゃうから私は心配なんだ。


分からないかなあ。このバカ。



もう一度ため息をついてキッチンに向かおうとすると、ぐいっと腕を引っ張られる。

振り向いたら、ニックと目が合った。


『何?』


「''俺はお前の肉付きの方が心配になる。良すぎて''」


『…、失礼!』


器用に片手で手話をしたニックの頭をどついて、掴まれてた腕を解放させた。
女の子になんてこというんだコイツ。ニナちゃんがなつく意味がわからん…!!



「〜〜ーッ、''痛ェじゃねェかこの野郎!''」


『''自業自得だバーカ!''』



恨みがましい目を向けてきたニックに手話で突き返す。ニックはしばらく黙り込んで、口を開けた。


「ぉ゛れがばかな゛ら、お゛まぇはおぉ゛ばかじゃねェの゛」


『は!?なんでよ』


「な゛にも気付かねぇ゛あ゛ほだがらな゛」


『アホって…』



どっちよ、と口には出さずごちる。



『(怖い顔して、みんなにはすっごく優しいくせに、私の扱いだけ、違う)』





ニックから目をそらして、また内心ごちて。
こんなやりとり、もう何回やったんだろ。

ニックは、何も言わない。

私は立ったままでいるのがつらくなって、しゃがみこんだ。
自然とニックの顔も近くなる。

ちら、とニックを見ると、目が合った。
この人は、人から目をそらさない。


「'' ''」



『え?ちょ、ゆっくり…ん、』






あぁ、もう

なんて言ったの、バカ。




(あぁもうお前、めんどくせぇ)

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