2.僕らが好いている人
最高学年の一つ下、5年生。
プロ忍、6年生には劣るものの、5年生と言えるだけの実力は持ち合わせている彼ら。
そんな彼らは、先輩に懸想している。
「はぁ…寒い」
「先輩!どうぞ僕の胸に!!」
「先輩!布団なら温めておきます!!」
「くのたま長屋に忍び込めるのならどうぞ」
「………」
「先輩!白湯です!!」
「お、気が利くね。ありがとう三郎」
夜の食堂。
兵助が豆腐の様子を見に行くと言うので着いてきた5年生一同は、何たる偶然か、好きを公言している大好きな先輩と巡り会った。
「はぁ、あったまる…ところでおまえ達何をしてるのかな」
「かくかくしかじかで」
「ふうん。兵助も精が出るねぇ」
「豆腐のためですから!更に言うなら先輩により美味しい豆腐を食べて頂くため!!」
「うん、風邪は引かないでくれよ」
「先輩お優しい…!」
話が変わったのには突っ込まないのか。
彼女はそう思ったものの何も言わず、白湯を飲みほす。空いた湯のみは三郎によって回収された。
次の瞬間には三郎がその湯呑みを使って何かを飲んでいるように見えたが、彼女は見ていないふりをする。
「にしても全員来ることは無いだろうに」
「みんなでろ組の部屋に集まってたんです。怪談していて」
「おまえ達本当に仲が良いね」
「先輩」
雷蔵はへにゃりと笑って、肩を震わせていた彼女に羽織をかける。どうやら、寒さに首を竦める彼女を見ていたらしい。
「雷蔵、風邪をひくぞ」
「大丈夫です。鍛えていますから」
にこにこ。断っても聞いてくれなそうな雷蔵に彼女は諦めたらしく、ありがとう、とだけ呟いた。
「雷蔵!またそんな男前みたいなことして!」
「雷蔵は実際男前だろう!」
「どうして三郎が胸を張るのだ」
「全くだよ」
「雷蔵!?」
「うるさいよ」
これ以上は他の人を起こしてしまうよ。そう言って彼女は食堂から出た。あとを追いかけてきた彼らを見て、肩に羽織っていたものを思い出した。彼女はそれを雷蔵に返そうとするが、雷蔵はそれを受け取らない。返す。着ててください。嫌だ返す。その応酬を見て勘右衛門が飛びつく。
「じゃあおれの羽織ってください先輩!」
「尚更嫌だ」
「酷い!!でも好きです」
「意味がわからん。風邪をひかれると困るんだ」
「鍛えてますから大丈夫ですって!」
「それなら私も鍛えているから大丈夫だよ。もう部屋に戻るし」
「そうじゃないです…!そうじゃなくて!」
勘右衛門を押しのけて彼女の正面に立つ。
自分より少しばかり小さい彼女を見下ろして、雷蔵は多少声を荒らげて言った。
「いいから着ててください…!大事な大事な先輩に、風邪をひいて欲しくないんです…!」
彼女の胸の前で、交差させた羽織をぎゅう、と握りしめる。
「わかったよ」
諦めたようにため息をついて、彼女は羽織を握りしめる雷蔵の手を握った。え、雷蔵が声を漏らしたが、彼女は素知らぬふりでその手を柔らかく外す。
「今日は借りておくよ。近いうちに洗って返す」
「あっ洗わなくていいです!」
「それは私が嫌だ。じゃあ、おやすみ」
立ち去っていく彼女を見送りながら、ちらちらと雷蔵を見る4人。
雷蔵は「手、握られちゃった…」と言いながら震えていた。
「よこせ雷蔵。先輩の温もり!」
「勘右衛門ほんっと気持ち悪いけど同意する。くれ!」
「やだよ!」
「まぁいいさ。…ところで、見た?先輩」
「雷蔵の羽織を握りしめていた。かわいい」
「かわいい。雷蔵ずるい」
「ふふ、今回は僕の勝ちだね」
「かわいい先輩を見られたからいいのだ」
後輩達は慕っている。強くて優しくて、押しに弱いくのたまの先輩の彼女を。