4.僕らが彼女を好く理由
「「「「先輩方は、どうして相模先輩のことを好いておられるのですか?」」」」
「「「「「えっ?」」」」」
久々知兵助は、火薬委員会の仕事のために来ていた火薬庫で、二郭伊助に。
不破雷蔵は、委員会の手伝いに来ていた図書室で能勢久作に。
尾浜勘右衛門と鉢屋三郎は、委員会という名のお茶会のために集まっていた学級委員長委員会室で、黒木庄左ヱ門に。
竹谷八左ヱ門は、虫探しを終えた飼育小屋前で、上ノ島一平に。
委員会の後輩達は、不思議そうな顔で聞いた。
「「「だって、委員会の先輩じゃないから、」」」
伊助は言う。「僕はほかの委員会の先輩と接点がありませんし、あ、もちろん顔は覚えてますけど!」
久作は言う。「それに、相模先輩はくのたまじゃないですか。くのたまの先輩は特に、えっと…恐ろしい、ですし」
庄左ヱ門は言う。「授業や実習で関わることもほとんどありませんよね。ひとつ上の先輩なら、尚更のことじゃありませんか」
一平は言う。「相模先輩には僕達もよくしてもらってますけど、それ以上に、なにかあったんだろうなぁって」
思ったんですけど、どうなんですか?
「「「「「そうだなぁ」」」」」
後輩達の曇りない眼をみて、5人は笑って答えた。
「確かに、接点も何も無かったさ。くのたまにとても優秀な先輩がいるという噂だけ聞いていたのだ」
「僕達も下級生の頃はくのたまによくいたずらされたしね。間違いなく恐怖の対象だったよ」
「同期のくのたまですら実習はあまり組まなかったものなぁ。」
「どうしても数は余るしね。雷蔵や八はよく組まされてたけど」
「俺たちと尻尾先輩のはじまりは、町で助けて貰ったことかな」
それは4年前。まだ尻尾が5年生を可愛いと思っていたときより前のこと。
「当時1年生だった俺達は、町でくのたま教室の実習をしていた先輩に会ったのだ」
「僕達はお休みの日で、街に出掛けててね。勘右衛門がお腹がすいたって言うものだから、甘味処を探してたんだ」
「そこで声を掛けてきたのが先輩だった。その時私達はくのたまの先輩だとは気づいてなかったけれど。たしか…団子屋の娘としてアルバイトの実習をしてたんだっけな」
「なーんか見たことあるねぇって話したんだけど、まぁいっかってなって、団子食べてたんだよねぇ。そしたら」
「突然大男が来て、『団子をよこせ』って言ったんだよ」
「…なんで?」
「ちょ、勘ちゃん…!」
「なんで、だと?俺を知らんのかクソガキども」
「知らないよ。なんで知らない人に俺の団子あげないといけないのさ」
勘右衛門は平然と答えていた。4人はそれを驚きの表情で見る。勘右衛門自身は、ただ自分の団子を取られるのが嫌だっただけ、だったのだが。
そしてその態度に、大男は怒った。
「大人しく渡してくれりゃ、怪我しなくて済んだのになぁ」
大男の手が勘右衛門に伸びる。隣に座っていた兵助が咄嗟に勘右衛門の体を後ろに引いた。
そのときだった。
「すみませんお客さーん。泥棒はやめていただけますか?」
「声を掛けてきた先輩が大男を諌めたのだ。大男は驚いたが、自分を諌めた相手を見て笑った。」
「『ガキがガキを守ってら。大層なことだねぇ』…そんなことを言ってたかな。先輩を捕まえようとした大男に、先輩はなんて言ったと思う?」
「『大人がガキに物をせびるなんて、大層なことですねぇ』。くく、シビれる皮肉だったよなぁ」
「大男はさらに怒って掴みかかろうとしたけど、いつの間にか先輩は袋槍を持っててさ。扱いもうまいもんで、店から大男を追い出したんだ」
「先輩、勘右衛門に『キミ凄いね』とだけ言ってたなぁ。後日、忍術学園で会った時には驚いたよ。先輩は『あぁ、あの時の…?』って、俺らの顔も覚えてなかったけど!」
それからかな、尻尾先輩と仲良くなったのは。
「そんなことがあったんですねー」
火薬の数を数えながら、伊助は頷く。
「きっかけはわかりました。相模先輩、凄い方ですね」
本を片付けながら、久作は言う。
「では、お慕いされてる理由はなんなのでしょうか」
お茶を汲みながら、庄左ヱ門は問う。
「上手くはぐらかされた気がします!」
虫に餌をやりながら、一平は気づく。
「それは、内緒だ」
どうしてですか?後輩が聞いた。
うん、と頷いた。
「この気持ちのきっかけを、大事にしたいんだ」
よくわからない顔をする後輩に、話せるようになったら話してやるよ、と約束をする。
今夜は実習があるから、今日はこれで終いだ。お疲れ様。
そう言って、解散した。
「竹谷が怪我したって聞いたんだが!」
「「先輩!」」
「あ、先輩…」
「ちょっと!俺達もいるんだけど!」
「先輩しか見えてないのだ」
「容態は?」
「先輩…」
「頭と背中を思いっきり打ちました。あとは擦り傷です」
「しばらく安静が必要だけど、ちゃんと治るよ」
「そっか…。よかった」
安心したように、笑う先輩。
あぁ、先輩。
先輩のそういうところが、好きなんです。