くすんだ夜空のムコウ側

 物心が付く頃には生命を蹂躙し、弱者からありとあらゆるものを奪ってきた私は、どこに出しても恥ずかしい立派な外道にすくすく育った。綺麗事は微塵も通用しない、弱肉強食を具現化したこのサウスタウンで生きていくにはそれ以外の方法はないから。でも、もしも自分が太陽のもとで平穏な暮らしを送る真っ当な人間だったら……。なんて、突拍子もなく思い耽る。

「なんだよ。テメェ、んなろくでもねェ事ごちゃごちゃ考える人間だったか?」

 少なくともろくでもないビリーには言われたくなかったなあ。からかい半分で放った返答は彼の怒りを買うのには充分だったようで、その証拠に大きい舌打ちをお見舞いされてしまった。すっかり冷めきった缶コーヒーを啜って、私は重たい空気をやり過ごす。

「……まあでも、フツーの人間になるか、今の私かを選ぶなら、私は今の私を選ぶよ」

 折角こうしてビリーと楽しくやれてる訳だし、捨てるなんて勿体ない。二人で腐れきった人生を謳歌するのは何にも代え難い代物だ。真人間になるためにビリーを失うのなら、なれなくたって構わない! 
 
「オレもだ、奇遇だな」

 名前と暴れてる方が性に合ってるぜ。図らずも自分と似た意見が彼の口から飛び出るものだから、つい頬が緩んだ。全く以て、ビリーは私を喜ばせるのが上手である。

「お喋りは終わりだ」

 さっきまでの彼は消え、ギース様の右腕の彼へ纏っていた雰囲気が変わる。ビリーの好きなところのひとつだ。目的の人物へ二人で歩み寄る。気づかれないように、離れないように。あの男が振り返ったら、愉快な時間の幕開けだ。

 灰色の空にはちっとも星は輝いていない。

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