青春の包囲網

 祭り独特の喧騒に飲まれつつ、ふらふら当てもなく人の流れに沿って進む。折角張り切って浴衣で赴いたというのに、肝心の友人が彼氏を優先してしまったせいで見せる相手もいない。そこに怒りはないが、少し寂しい気持ちが存在しているのは事実で、私はその虚しさを慰めるべく屋台のりんご飴を手に取り代金を支払った。

「お嬢ちゃん、デートかい?」

 彼氏の分もオマケしといてやらぁ、商品を二つ渡してくるお爺さん。浮かび上がる疑問符、恐らく何か勘違いをしている。

「ありがとうございます」

 すぐ様否定をするべく開いた口は、突然横から割って入ってきた少年により閉じる羽目になった。ほらよ、私に飴を差し出す彼。早田君だ。おずおずと受け取ると、空いた手を引かれる。再び歩み始めると、後ろから熱いねえ! なんて野次が飛んできた。違う、付き合ってなどいない。

「聞いたか? おれ達デート中なんだと」

傍からだとカップルに見えるんやな。その分おれ、得したぜ。名前と手繋げたし。恥ずかしげもなくさらっと呟く彼に体温が上がるのを感じて、誤魔化すように買ったりんご飴を舐めた。

「なんや、自分照れとるんか」

 顔、それみたいに真っ赤やで。屈んで耳打ちをする早田君に、馬鹿じゃないのと暴言を吐き捨てた。そもそも何故ここにいるのか問い質すと、彼も彼で友人に裏切られ、考え無しに徘徊していたらしい。つまり私達は似たもの同士な訳で、つい笑ってしまう。何笑っとんねん、打って変わってムスッとした表情を浮かべる早田くん。

「ごめんごめん、一緒に回ろっか」

 手をきゅっと握り返す。寂しいと感じていた祭りも、案外良いものかもしれない。

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