贖罪恋愛
あふう、隣で盛大に欠伸をする幼馴染に「仕事中だ」と窘める。彼女は相変わらずふやけた笑みを浮べながら謝罪するが、全く誠意は伝わってこなかった。それなりに忙しい時間帯にしては、不自然な位に閉散としている。僕は警戒を怠らずに路地裏に進んだ。
「そっちは担当区域じゃないよ」
背後で間延びした声がする。勿論そんな事は分かっているが、一刻も早くあいつらから立ち場を捥ぎ取りたいのだ。悠長な事をしている時間はない。
「ねえ、鴨太郎は何と戦っているの?」
急に服を掴んだと思いきや、普段からは想像もつかない程の真剣な眼差しを寄越す名前に息詰まる。僕の計画は、彼女には伝えていなかった。間違いなく認めてくれないだろうし、何より巻き込みたくはない。
「⋯⋯君は知らなくていい」
こうやって突き放すのは、どこかで名前を失う事を恐れているからかもしれない。理解者にはならないけれども、ただ隣にいてくれるだけで僕としては充分なのだ。それ以上は望んでいないというのに、どうしてこんなに胸が痛むのだろうか。
薄暗くて狭いこの場所は、まさに僕の心境を表していた。