甘さに油断してね

 傘を持たずに外に出た私はどうかしていたと思う。あれ程傘を持っていけと念を押されていたというのに、急いでるからの一言で切り捨てたのだ。罰が当たったな、走りながら頭に浮かべたのは可愛げのない彼の事で、帰ったら何を言われるか、今からほんの少し怖気付いた。
「ただいま〜……」
 怒られたくない一心で声量を落とした挨拶をする。数秒後に大きな物音を立てながら鴨太郎が部屋から出てきた。私のせいで石畳の玄関に出来る水溜まりなどお構い無しに「どうして連絡しなかったんだい!? 迎えに行ったのに……!」と、普段余裕のある彼にしては珍しく動揺した様子を見せる。
 タオルを持ってくる。いや、先に風呂が良いか? ひどく取り乱している鴨太郎は真選組の参謀という肩書きを持つ人間とは到底考えられない。
「っ、大体、君が傘を持って行きさえすればこうはならなかったんだ」
 堪らず笑みを零した私に、鴨太郎は不服そうに苦言を呈する。こればかりは何も反論できないので、すぐさま謝った。
「⋯⋯これからはきちんと連絡するように」
 コホン。咳払いをしてそのまま風呂に入るよう催促する彼を、私は心から愛している。

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