キルトス戀情

 体がだるくて仕方ない。薄手のブランケットを手繰り寄せて、また溜息をつく。定期的に流れてくる扇風機の生温い風が私の髪をすり抜けていくが、正直大した意味合いを持つことは無くて、結局の所、額の冷却シートが僅かな希望だった。人が熱中症で倒れているのにも関わらず、蝉の輪唱がこの上なく騒々しい。舌打ちの一つでもこぼしたくなったが、同室で携帯ゲームをしているコダマくんがいるのでやめておいた。
 それはそうと何故彼はここでゲームなんかしているのだろう、皆と海にでも行けば良いのに⋯⋯。最も、コダマくんが和気藹々としている姿は想像に難いが。今にも溶けてしまいそうな脳味噌で彼の心中を探ってみても、答えなんて到底理解出来る気がしなかった。

「大人しく寝ていろ」

 急に喋ったかと思えば、手元の物を置いて私に寝るように促す。とは言われても全く眠気が襲いかかる気配はない、起きているのも辛いのは間違いないけれど。まさに生き地獄だ。
 コダマくんが近寄ってくる。なんだろう、布団の後ろにある充電器にでも用があるのかな。するりと伸びたの手は充電器に向かわず私の頬に落ちた。突然の事に驚きを隠せない。目を瞬かせると、なんだよと彼は不満げな表情を浮かべる。

「早く治せ、名前がいないと出かけられないだろう」

 微かに微笑んで優しく撫でるコダマくんに、熱がまた上がってしまいそうだ。意外にも彼のお目当ては、電子機器ではなく私だったらしい。そんな素振り見せたことない癖に。

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