寄らば適温で

 定番中の定番。屋上に呼び出され、何事かと思えば「好きだ」熱のこもった目で先輩は愛を紡ぐ。新堂先輩を恋愛対象として認識していなかった私は、上擦った声で謝罪し深々と頭を下げると、彼は笑顔で気に止めていない素振りを見せた。
 あれから数週間、新堂誠という男はすっかり私の生活の一部となりつつある。放課後に彼は決まって現れ、私と他愛のない話をしながら帰路に就くのだ。

「よお、移動教室か? 送れないようにしろよ」

 近寄って私の頭を撫でる新堂先輩。次は体育なのか、普段見慣れないジャージ姿だ。軽く挨拶を交わし友人の元に戻ると、お熱いねえなんて茶化される。目を見張る私などお構いなく、彼女はクラスでもその話で持ち切りだと耳打ちし笑って先に歩いていった。
 周りから完全に誤解されていて、頭を抱える羽目になる。どうやら、私は知らない内に彼の戦略に嵌っていたのかもしれない。

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