彼は長い髪を鬱陶しそうに雑に束ねてシェリーを組み敷いた。
未だ酒を飲めない年齢のシェリーに無理矢理飲ませた蒸留酒がジンであるかは判らない。ただ何かしらの独占欲の表れだった。
強制的な依存だ。
シェリーに覆いかぶさる彼の指から身を捩り、感覚を麻痺させるようにそんなことを考えた。閉鎖的な環境に較べ毎日毎日変わる数多の人間との交流、持続的な交流を持った男に心を開くのはごく当然のことだ。そう言い訳をした。
社会的に正しい人間をシェリーが好むとは限らないように、彼のしていることが人道的でないのだとしても悪だと糾弾する理由も義務もない。彼の言動は社会的に抹殺されるべきものだがシェリーにとってはありがたいものだった。それは悪への許容、肯定になってしまうのだろうか。
彼の荒い吐息がシェリーの首筋にかかる。ベルモットと身体を重ねているであろうジンがシェリーの何処に慾情するのかが判らなかった。
彼の唇が動く。名を呼ばれているのだと気づくには理性を失い過ぎていた。
夜は明けない。こんな地下では。
彼は髪を解いて服を着ると髪をそっと撫で、部屋を出て行った。
シェリーが寝ていると思ったのか知らない洋楽を口ずさみながら。
身を起こすとAM10:00と彼の字でメモが残っていた。特に予定はなかったと記憶していたがその時間までにひとが訪ねて来るなり出かける準備くらいは整えておけということなのだろう。
床に放られた服を着ると服の大事さをしみじみと感じる程度には温かい。
彼の残したシャツを拾う。あのひとは大抵シェリーの部屋に何か置いていった。.44マグナム弾、空になった煙草の箱、少し錆びた万年筆、前時代の褪色した女の写真。
シェリーの部屋にそれを置くことで支配慾を、独占慾を満たし、周りを牽制するのだ。彼の行動を憎からず思っている自分と支配されている自分への恐怖。
半同棲している部屋だから何が置いてあっても可笑しくはない。それでも彼は支配したがっている。だから支配されているように感じる。ようは思考の思し召す末路なのだ。
シャワーを浴びて意識を覚醒させる。彼は今日も人を殺し、その手でシェリーを抱くのだろう。
別にシェリーはそれを拒みはしない。
彼にとってはそれが普通なのだ。汚れ仕事以外に手を遣ったことがない男。人を救う理由のない男。
地下に幽閉され続ける孤独な女。薬を作る以外芸のない女。
お似合い過ぎて悪寒が走る。
二人の世界はいつだって相対する対角線上にあるのだ。
サイレンサーが発砲音を消すためのものではないと知ったのは彼の所為だし、スミス&ウェッソンの44マグナムの美しさに見惚れてたのは彼のおかげだ。
S&W44マグナムは後日ジンから買い与えられた。支配する以上に甘やかしたいのだろう。何かと贈りものをするのはそういうわけだ。発砲した事はない。理由がないから。でも多分撃つときが来たのなら記念すべき一発目は彼に捧げるのだろう。
シェリーの中で愛は貴いものではない。
ドアの開く音がする。忘れものでもしたのだろう。いつも何かを放置しようとするからだ。
シャワーがだんだんお湯に切り替わる。身体は未だ温まらない。
直ぐにここのドアも開くのだろう。彼はシャワーを止めてシェリーを引き寄せる。そこまで想像した頃、脱衣所の戸が開く。
それでも愛しているのだからつまりはそういうことなのだ。
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