Honey Girl in the mirror
鏡をずっと眺めているとね、蜂蜜みたいに奥が透けて見えて貴方の心も見えちゃわないかって馬鹿な事考えて時間が経っていくのよ。
「おい。」
ドレッサーから気だるそうな顔付きで這い出てきた男にイラーリは肩を震わせた。
ああ、見慣れたこの男は…
「どうしたの、イルーゾォ。 何もこんな所から出てこないで頂戴。」
男によって倒された数々の化粧品を見るなり溜息が零れる。
「悪ぃ、でも急ぎの用事なんだ。俺、徹夜明けなんだぜ?」
目の下のクマを指差しながらも鏡の中へイラーリを誘う。
「イラーリを許可する」
お決まりのこの台詞、付き合う前から仲の良かったイラーリは何度も何度も聞いてきた。
「ちょっと、まだ化粧も途中何だけどどうしたのよ。 今日何の日か知ってるでしょう? 主役は私なのだから早く要件を…」
反転したこの世界でイラーリとイルーゾォが2人っきりになるのは初めてではない筈なのに何故だかよそよそしいイルーゾォに胸が脈打った。
「イラーリ…誕生日おめでとう…。 その、プレゼントはこれから用意するんだけど…ちょっと俺の話を聞いてくれないか?」
いつになく真剣な顔をしているのに、目元の大きなクマのせいで台無しである。
しかし、イラーリはゴクリと生唾を飲みイルーゾォの低く胸に響く心地が良い声に耳を傾ける。
「俺はこんな仕事だからイラーリを必ず幸せにはしてやれないし、安月給でろくにプレゼントも買ってやれない。 プロシュートみたいに女が喜ぶような甘い言葉も吐けやしないし、ましてやリゾットみたいに才能に溢れてるわけでもない。 でも、お前の事を誰よりも愛しているし其処は誰にも譲らない。 こんな俺がイラーリとの家庭なら築いていきたいって思えたんだ。………笑うなよ?
俺の残りの時間をお前にやる。 給料貯めて指輪も買ってやるし、ティファニーでもグッチでもシャネルでも、お前が欲しい物は何でも買ってやる。
心の底からお前を愛しいと思えるんだ。
結婚しよう、イラーリ。」
包まれた両手は暖かく、まるで人殺し何てしたことの無いような清いモノだった。
イラーリの目から零れた熱い雫はポトリポトリと反転世界を濡らしていく。
イラーリは壊れた人形のようにうんうんと頷き、崩れる化粧も腫れるであろう瞼も気にせず感情に身を任せて泣きじゃくるのだ。
イルーゾォは自分の胸の中に収まる彼女を愛おしげに抱きしめる。 自分よりも薄い背中に手を置き、「Tiamo」と低い声でわざと呟いてやる。
「1世1代のプロポーズ、どうだった?」
蜂蜜色の昼下がり、婚約記念日は新婦の誕生日だなんてきっと愛の器からロマンチックが溢れ出たに違いない。
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