小腹を満たした所でさち子は仕事へ戻る。
仕事が憂鬱という訳でもなければ何処ぞのボンボンのように仕事を心から楽しんでいる訳でもなかった。
生きる為に仕事をして仕事をする為に生きる、そんな女だった。

恋人は過去に5人ほどいたし、処女でもない。
ただ、恋する乙女と呼ばれる程の心が掴まれる恋というものを経験したことはない。
愛の無い交際、愛の無いセックス、愛の無い抱擁、きっとさち子自身が1番分かっていた。
周りの女は恋人からの愛の言葉ですっかり骨を抜かれてぐちゃぐちゃに蕩けてしまっている。
最後に付き合った男とセックスレスが生じたのと同じ時期、その男の婚約者を名乗る女が部屋に大股で床が抜けるような音を立てて入ってきてはいきなり拳で殴られた。
きっと夜の中理不尽なのよ、さち子とその男の間に愛等無かった。

仕事仕事と言えども毎晩毎晩遅くまでオフィスに籠り、足は浮腫んで肩凝りとめの疲れに悩まされるOLにはなりたくなかった。
しかし、酒の輸入業者何てものは酒屋やバーとの連携が無ければ大損である。
その点においてはさち子の運は良い。

給料も悪くない、その気になればPRADAもGUCCIもHERMESも買えてしまう程には。
ただ、夜のバーは危険だ。ドラッグ中毒者、浮浪者、人攫い…治安は良くないのだ。
さち子は日本が恋しいと思った事は無いが、治安の良さという部分に関しては別だった。

この国の男というのは単純で、さち子の赤いドレスのスリットから伸びる日本人にしては白くて長い足も、セミロングでストレートな黒髪も「好きだ」と言うが所詮愛してくれるのは身体だけなのだ。

ラジオから雑音と共に軽快なジャズナンバーが聞こえる、女性シンガーがマイクに口紅を擦り付けながら歌うアレだ、曲名何てものは覚えちゃいない。

さち子は過去の思い出を掻き消すかのようにラジオを切って立ち上がる。

真っ赤な爪で紙幣を数えながらバーへの道を細いヒールで歩くのだ。


ALICE+