「おいおい、本当かよ。」

「あいつはすげえや、尊敬しちまうくらいさ。 毎日毎日別の女と歩いてやがる、世界中にガールフレンドがいるらしいぜ。」

下品な笑い声と噂話が耳を掠める。
ホル・ホースの噂話だった、さち子は無意識に聞き耳を立てエールを啜った。

「何せあの男は風来坊の遊び人に見えるが、腕の立つ殺し屋だって噂だ。」

さち子は思わず目を見開いた。
乾いたマスカラが下瞼に違和感を与える。

「ちょっと、その話詳しく聞きたいんだけれど」

気が付くよりも身体が動いていた。
お気に入りのブランドの新作財布から取り出されたのは4枚の紙幣。
さち子は叩きつけるようにテーブルに紙っ切れ4枚を置く。

下品な男達は唖然としつつもさち子の並ならぬ態度に紙幣を四つ折りにしてポケットに捩じ込んだと同時に酒臭い口を開いた。

ホル・ホースという男は見たとおりのプレイボーイだがただのプレイボーイではない。
女を平等に愛し、ブスでも美人でも女は尊敬するものだと豪語する世界一の女好き。
世界中にガールフレンドだっている。
なにより、この街にいるゴロツキの親玉を殺せという依頼を隣町を拠点にするマフィアめいた組織から受けた殺し屋なのだそうだ。

さち子は信じ難いとは思ったが、信じられずにはいられなかった。
彼なら確かにとっても似合っているしこれ以外似合わないと思ったのだ。

「映画みたいね、あの最近男優賞を取ったハリウッドスターが出る映画みたい。私、彼好きなのよ。」

「それはハリウッドスターかい? それともホル・ホースってあの男かい?」

男の1人は冷やかすような口調でさち子の肩を押した。
もう1人の男が顎でさち子に合図をする、「後ろを見ろ」と。

「ありがとう、私が好きなのはハリウッドスターよ。 女癖の悪い男は嫌いなの。」

わざと後ろにいるはずの色男に聞こえる声で言ってやる、小心者の小娘にはまだ嫉妬という感情が分からないのだ。
これは嫉妬なんかじゃあないわ、そう胸に言いきかせて。


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