カプセルトイ
夏希がホームセンターに行くと、ガチャポンのコーナーで子どもたちが群れて騒いでいる。
「僕のは『かよこ』だって」
「俺は『むつみ』だぞ」と、叫び声をあげている。
どうやら、当たったガチャポンを見せ合っているようだ。
しかし女性の名前がでてくるというのはどういうわけだろう。
『ガチャポン』に『女性の名前』とは、ちょっと違和感があるのではないかな。
「何のアイテムなのかな」と、少し気になったが、でも「用事を済ますのが先だな」。
夏希は大学生。今日はTシャツにピッタリとフィットしたジーンズ姿。
お休みの日だが、メガネの度が少し合わなくなったので、調整に来たのだ。
メガネの件はすぐに終わり「買い物がてら、ちょっと見て行こうかな」と、施設内をブラブラと歩き出した。
そのうちに再び、ガチャポンのコーナーの前に来てしまったが、子供たちはもういなかった。
「あの子たちは何を騒いでいたのかな」
コーナーの中に入っていった。
ガチャポンの販売機がズラリと並んでいる。
サカナ・・・カツオやサバ、その他魚介類のアイテムがある。
工事用作業車・・・ブルトーザーやクレーン車などのアイテムがある。
どれもこれも本物そっくりだ。
「ふーん、すごいね。すごくよくできてるな」
次々に見ていって、子どもたちが群がっていたところにアったのは、
「いっ、『日本の女シリーズ コレクション』?」
販売機の中を覗いてみると、
「はあ、これはまたうまくできてるなぁ」
パンツルックをした若い大学生のような娘。
何かのコスプレを着たかわいい女の子。
どこかの会社の制服姿のグラマラスな女性。
その他、種類はいろいろであるが、非常に精巧な人形が入っている。
いずれも気を付けの姿勢で、ニッコリ笑っている。
「へ―ぇ、種類がバラバラで少し脈絡がないような気もするけれどな。あれ名前も書いてある」
ガチャポンの人形はプラスチックの容器に入ってイるが、その中に『あきこ』『りょうこ』と書かれた紙きれも一緒に入っている。
「名前までついているんだ。ははぁこれか。さっき子どもたちが叫んでいたのは」
「いらっしゃいませ。失礼いたします」
突然、うしろから声がした。
驚いて振り返ると、50代ぐらいの男が立っていた。
(ああ、掃除の人なんだな)
腰には雑巾とハタキがぶら下がっている。
左手にはガチャポンの空ケースが山盛りに入ったバケツを持ち、ガチャガチャと音を立てている。
「あ、どうも」と夏希は会釈した。
「お買い物中、お騒がせしまして申し訳ありません。掃除はすぐ終わりますので、どうぞお買い物を続けてください」
男は一番奥にあるガチャポンの台に行き、雑巾で拭き始めたのだが、突然思いだしたように、
「あのお客様、もしよろしければ、壁に貼ってある女性の名前の一覧表に、そちら様のお名前、その上に〇(丸)を付けていただけませんか」
「え、名前?」
壁を見ると、A4の用紙が数枚貼ってあり、女性の名前がたくさん書かれている。
「あ、なるほど」
左端には、たぶんこの表の題名だろう『商品一覧』と、目立つように、太くて大きな文体で書かれている。
(商品一覧表か。何のことだろう?)
『あい』『あいか』『あいこ』・・・からはじまって、『わかほ』『わかよ』・・・、と、とにかくたくさんの名前が平仮名で書いてある。全部女性だが。
そして、その名前のいくつかには〇もついている。
「あたしの名前もあるのかな」
男はしゃがんで、ガチャポン販売機の位置を直していたが、振り返り、
「日本中の女性の名前が載ってるはずなんですよ」と、笑っている。
夏希は「へぇ、そうなんですか」と、少し驚き、もう一度一覧表に目をやった。
「あ、あった」
何枚目かに『なつき』と載っていた。
「上に〇をすればいいんですか」
「ええ、そうです。お願します。よし、この台はいいかな」
夏希は置いてある鉛筆をとり、〇を付けた。
「あれ?」
とたんに、目の前が明るくなり、あたりがグルグル周りだして、意識が・・・
男は落ちている人形を拾い上げ「いい人形ができたな」とボソリと一言。
いっしょに落ちている紙きれも拾いあげて、
「『なつき』か。なかなかいい名前だな」と言った。
バケツの中からプラスチックケースを一つ取りだし、人形と紙きれを一緒に入れて封をした。
さらに『日本の女シリーズ』の販売機の中へと入れると、あとは何事もなかったように掃除を続けている。
販売機の中には、Tシャツとジーンズを着てメガネをかけた、かわいい人形が1個増えた。
人形になった夏希は、他の人形たちに交じって微笑んでいる。
もうなんの違和感もない、完全なガチャポンのアイテムだ。
しばらくスると、女性が2人はいってきた。
「ちょっとここ、見て行こうよ。面白いアイテムがあるかもよ」
男は再び同じように声をかける。
「いらっしゃいませ。もしよろしければ、上の方にある女性の一覧表に〇をつけていってくださいませんか」
午後になると、子どもたちが押し寄せてきた。
「お前のなんだった。俺は『さちよ』だ」
「僕は『しげこ』だって」
ガチャポンが売れるたびに、販売機の中の人形たちの位置がずれる。
何人かの男の子たちが買いに来た。
そしてガチャポンを持って去っていく。
販売機の中では・・・
その様子を、下の方にかなりずれて横倒しになった『なつき』が見ていた。
ニッコリと笑いながら。
カプセルトイ 完
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